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福岡高等裁判所 昭和37年(ナ)2号 判決

原告 辻本市之助

被告 熊本県選挙管理委員会

補助参加人 堺進也 外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は参加によつて生じた分を含め原告の負担とする。

事実

原告は、「被告が昭和三七年三月一〇日告示した裁決(昭和三六年九月一日竜ケ岳町選挙管理委員会が、訴願人の申立てた選挙の効力に関する異議に対してなした却下の決定を取り消す。昭和三六年八月五日執行の竜ケ岳町長選挙を無効とするとの裁決)を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

一  主張

原告の主張。

別記原告準備書面のとおりである。

被告及び被告補助参加人らの主張。

被告が原告主張の裁決をなし、同主張の日に告示したこと、兵庫県伊丹市から不在者投票用紙と同封筒を請求した一六名の氏名、竜ケ岳町選挙管理委員会(以下町選管と略記する)がこれを受理した日時、及びその後の取扱いの経過、愛知県常滑市から不在者投票用紙と同封筒を請求した一五名の氏名及びこれに対する前記町選挙管理委員会の事務執行の事実関係が、原告主張のとおりであることは認める。ただし右事務取扱いの当否についての原告の主張は正当でない。補助参加人黒岩満は右選挙の選挙人である。なお、別記被告準備書面のとおり陳述した。

二  証拠関係〈省略〉

理由

一  昭和三六年八月五日執行の熊本県天草郡竜ケ岳町の町長選挙において、原告と補助参加人堺進也が立候補し、選挙の結果原告が二、一二七票を得て当選人と決定され、堺進也は二、一〇一票を得て次点(落選)と決定され、この決定に対し候補者であつた堺進也と右選挙の選挙人である補助参加人黒岩満の両名が、同年同月一一日町選管に対し、選挙の効力に関する異議の申立をなしたが、同町選管は同年九月一日異議の申立却下の決定をなしたので、右両名はさらに適法に被告に対し訴願を提起したところ、被告は昭和三七年三月三日付で「昭和三六年九月一日竜ケ岳町選挙管理委員会が訴願人の申立てた選挙の効力に関する異議に対してなした却下の決定を取り消す。昭和三六年八月五日執行の竜ケ岳町長選挙を無効とする。」旨の裁決をなし、昭和三七年三月一〇日これを告示した。(以上は被告の争わない事実と成立に争いのない甲第一号証の一、五、甲第二号証による。)

二  本件の争点は(一)不在者投票の違法の有無と(二)本件選挙の有権者でなく、従つて開票立会人たる資格を有しないことの当事者間に争いのない訴外北時鉄晴を、原告が開票立会人として町選管に届け出て、同訴外人が開票立会人として職務を執行したことに関する違法の有無の二つである。

三  よつて先ず不在者投票の違法の有無について考察する。

(一)  伊丹市居住者の不在者投票について。

成立に争いのない甲第五号証の一、二、第一〇号証の二、三、前記甲第二号証、当裁判所の各調査嘱託に対する昭和三七年七月一〇日付の熊本郵政局長、同年八月一〇日付伊丹市選挙管理委員会の各回答書、証人浜本幸吉、浜本義貞の各証言、当事者弁論の全趣旨によれば、本件選挙の選挙人である江口恵造、江口数己、打越山初晴、丸山恵、浜本平吉、浜本義貞の六名(以下江口外五名と略記する)は、同じく選挙人である安井更雄、富永洋、野口塚雄、松永正利、小川徳光五名(以下安井外四名と略記する)の者等とともに、昭和三六年七、八月頃伊丹市において、大幸建設株式会社所属の従業員として土木建築等の工事に従業中であつたため、安井外四名の者等とともに、公職選挙法(以下法と略記する)第四九条第一号、同法施行令(以下令と略記する)第五二条第一項第一号所定の事業所(右会社をいう)の代理人である阪口治郎吉(同人は事業主として証明しているけれども、証明の内容について誤りがないので、この程度の証明書のかしは証明書を違法無効ならしめるものではない。)作成の、工事に従業中であるから八月五日執行の町長選挙には、選挙当日自から投票所に行つて投票することはできない見込みである旨の証明書を添付し、行政書士に依頼して作成した昭和三六年七月二五日付書面(竜ケ岳町伊丹市間は速達便をもつても、三日を要するのが普通であるから、七月二五日請求したことは相当)をもつて、町選管に対し伊丹市選挙管理委員会において不在者投票をしたいからとて、不在者投票に関する投票用紙並びに同封筒(以下不在者投票用紙等と略記する)を請求し、町選管は同月二九日これを受付け、安井外四名に対しては即日不在者投票用紙等を交付のため郵送し、交付を受けた者のうち、松永正利、小川徳光の両名は、八月二日伊丹市選挙管理委員会において、不在者投票をなすことができたのにかかわらず、江口外五名に対しては、同人らの請求書に各人の押印がなくまた同一筆跡で書かれているので、はたして請求者各本人の意思による請求であるか否か不明であるとして、その交付を一時保留していたので、交付を受けない請求者が、伊丹市選挙管理委員会に出頭して、その事情を問いただしたため、同年八月二日伊丹市選挙管理委員会の係員が、町選管に対し、電話をもつて未交付の理由を質したため、初めて同日江口外五名に対して不在者投票用紙等を速達郵便によつて発送したということが認められ、これに反する証拠はない。ところで竜ケ岳町から七月二九日郵送を受けた松永正利、小川徳光が八月二日前示の不在者投票をしているという事実、竜ケ岳町から伊丹市まで速達郵便の到達は普通三日を要するということ(前示熊本郵政局長の回答書参照)を考えると、八月二日速達便をもつて江口外五名に発送したところで、同人らがかりに伊丹市選挙管理委員会で法定期日(八月四日の午後五時)までに投票をなし得たにしても、八月五日江口外五名の属する竜ケ岳町の投票所の閉鎖時刻までに、不在者投票用紙等が到達し得ないことは極めて明白であるから、町選管は江口外五名に対し不在者投票用紙等の交付手続を誤り、選挙の管理執行の規定に違反したものといわなければならない。これに反する原告の法律上の見解は採用しない。なお原告は、江口外五名は本件選挙当時竜ケ岳町に住所を有せず、選挙人でなかつたから、町選管の措置が違法であつたとしても、同人らの選挙権は阻害されなかつたと主張し、成立に争いのない甲第二七号証によれば、江口恵造、江口数己は昭和三六年三月三一日、浜本義貞は昭和三五年一〇月二六日に、それぞれ竜ケ岳町国民健康保険組合を脱退転出し、打越山初晴は同組合の組合員となる前昭和三四年一〇月一日転出し一見竜ケ岳町に住所を有しないかのように見えるけれども、同人らが毎年調査作成される選挙人名簿に有権者として登載されていること、当事者弁論の全趣旨と前示証拠及び証人大森義治、橋本恒太郎、木村カヨ子、寺島義人、川本博来、岸田マチ子、橋本久江、打越山増義、平岡武彦、広田剛、滝下貞喜の各証言によれば、竜ケ岳町に住所を有し、家族を置いて、本人(多くは男子)が九州各地はもとより、山口県、京阪神愛知県等にいわゆる出稼ぎに行き、出稼ぎの仕事が終れば、つぎの仕事が見つかるまで竜ケ岳町の住所で生活し、更に仕事を追うて出稼する者が多く、これらの者は健康保険法の適用を受けるようになれば、国民健康保険組合の被保険者たる資格を転出を理由として有意的に喪失する手続をとり勝ちであり、浜本義貞は住所を竜ケ岳町に有しながら、健康保険法の適用ある事業所の従業員となつたため、転出を理由として竜ケ岳町国民健康保険の被保険者たる資格喪失の手続をとつた者で、江口恵造、江口数己も、同様の事由によるものと推認されるので、甲第二七号証だけでは浜本義貞、江口恵造、江口数己が竜ケ岳町に住所を有せず、有権者でないと認めることはできず、打越山初晴については、町選管において、甲第二七号証記載の昭和三四年一〇月一日以後である昭和三五年九月一五日以降同年一〇月三一日までに、同人の住所を調査し、同人が竜ケ岳町に住所を有する有権者であると認定したことが推認されるので、同号証をもつては、同人が同町に住所を有しない非選挙人であるとすることはできず、また丸山恵、浜本幸吉の住所は竜ケ岳町にあるものと推認すべく、同人らの住所が同町にないというなんらの証拠もないので、原告の前示主張は結局理由がない。

(二)  常滑市居住者の不在者投票について。

成立に争いのない甲第一一号証の六、七、前示甲第二号証、第五号証の一、二、証人広田剛、木場長四郎(第一回)、梅本明の各証言、当事者弁論の全趣旨によると、広田剛は昭和三六年七、八月頃中村とみ、中村靖、中村ふじ子らとともに、愛知県常滑市大野町矢田所在の中村清春を事業責任者とする中村組に雇われ、愛知用水公団のヒユーム管埋設工事に従事していて、業務のため選挙当日自から投票所に赴いて投票することができない事情にあつたので、法第四九条第一号、令第五二条第一項第一号の規定に従い、中村清春の不在者投票事由証明書を添付して、町選管に対し中村とみらと連名で一通の請求書で不在者投票用紙等の交付を請求し、町選管は昭和三六年七月三〇日これを受付け、同月三一日広田剛以外の請求者に対しては同用紙等を郵送し同年八月二日配達されたが、広田剛に対しては、請求書に同人が自署しかつ同人名下にその押印があり、請求は適法であるのにかかわらず、請求書記載の請求者の氏名が同一人の筆蹟のようであり、かつ証明書中の被証明者広田剛名下に指印はあるが、同人の押印がないという理由で、同用紙等の交付を一時保留し、八月二日にいたり伊丹市選挙管理委員会からの電話照会により、急遽前示江口恵造らへ郵送したのと同日、広田剛に対しても用紙等を郵送したこと、しかし同日の郵送をもつては、前示(一)に説明したと同一の理由により(常滑市は伊丹市と比較し、竜ケ岳町より距離も遠く郵便も手間どることは公知のことに属する。)、広田剛の選挙権(投票)を阻害した違法があるといわなければならない。同人が当時選挙権を有しなかつたかのような証人岩下光昭の証言は採用できないし、他に以上の認定に反する証拠はない。また右説示に反する原告の見解は採用しない。

ところで原告は、当時広田剛は竜ケ岳町に住所を有しなかつたと主張するけれども、広田剛の証言及び福井フミ子の証言によれば、広田剛は竜ケ岳町の他の出稼人とひとしく各地を転転として出稼ぎ労働に従事する者で、竜ケ岳町に母が居住し、居住地の住民登録をなさず、食糧の受配関係の転出入手続もせず、母へは時々生活費の仕送りをなし、稼働が終れば竜ケ岳の母の許へ帰来する予定であることの事実を認めることができる。これに反する確証はない。もつとも前示証言によれば、昭和三六年六、七月頃竜ケ岳町へ帰り妻坂口いき子と結婚し、常滑市に同伴してきたことが認められるのであるが、妻帯居住の場所が必ずしも住所であるとは限らないので、広田剛は依然竜ケ岳町に住所を有する者で、それ故にこそ不在者投票をしようと、不在者投票用紙等を請求したものであると見るのが自然である。

(三)  つぎに成立に争いのない乙第一号証の一ないし乙第七号証の五五関係(被告準備書面(一)(二)及び次表参照)のうち、本件の結論に消長をきたすと認められるものについて考察する。このうち、同準備書面の通番号一、二、三、九、一一から一四まで、二六、二七、二九(乙第一号証の一、二、三、七から一一まで、乙第二号証の一、二、四)に記載の一一名の者は、投票をしていないことを被告が自認し、原告も明らかに争わないので、同一一名に対する不在者投票用紙等交付手続の違法の有無についての判断を省く。(もつとも被告主張のように町選管が違法な不在証明書によつて、不在者投票用紙等を交付したという事実の存否は、同選管の選挙の管理執行が全体として一般に適切であつたか否かの徴憑とはなり得るであろう。)

(1)  乙第四号証(田中ミツ)関係。

乙第四号証の証明書は成立に争いのない甲第五号証の二に徴し明らかなように不在者投票をなした田中ミツが昭和三六年七月二七日大阪府岸和田市本町二二三秋山実穂子方に居住していることを、秋山実穂子において証明した証明書に過ぎず、法第四九条、令第五二条所定の証明書とはいえず、当事者弁論の全趣旨によれば、同条第三項の疎明もなく、町選管は乙第四号証の証明書により田中ミツが不在者投票をなすことを違法に許容していることが認められる。

(2)  乙第五号証(浜田ミテ)関係。

同号証及び成立に争いのない乙第二九号証の一ないし三、甲第五号証の二、当事者弁論の全趣旨によれば、町選管は令第五二条所定の証明書の提出ないし疎明がないのに、浜田ミテが不在者投票をなすことを違法に許容していることが明らかである。

(3)  乙第六号証(水谷小太郎、水谷よしの)関係。

乙第六号証は昭和三六年七月二九日付福岡県大川市明治町小松回漕店小松繁名義の、水谷小太郎、水谷よしのは右明治町に船舶乗組員として滞在していることを証明する旨の証明書で、小松繁が水谷小太郎、水谷よしのの令第五二条第一項第一号所定の長またはその代理人であるか否か明らかでないばかりでなく、大川市と竜ケ岳町との地理的距離関係を考慮すれば、同号証は水谷両名が業務に従事中であるため、同年八月五日の本件選挙の当日自から投票所に行き投票することができない旨の令第五二条所定の証明書と解することは到底できないのである。ところで甲第五号証の二、当事者弁論の全趣旨によれば、令第五二条の疎明がないのに町選管は右証明書により、違法にも水谷小太郎、水谷よしのに不在者投票をなさせていることが認められる。

(4)  乙第七号証関係概説。

乙第七号証の一ないし五五、証人天草盛三の第一回証言、同証言により成立を認める乙第一九号証の一、同人の第二回証言、同証言により各その成立を認める乙第一九号証の四から六まで、乙第二一号証の三、乙第二四号証から二八号証までの各二、証人木場長四郎、坂本仲市、荒田耕作、入口熊敏(以上は各第一、二回)、大森義治、梅本明の各証言、当事者弁論の全趣旨によれば、本件選挙当時竜ケ岳町には町長、助役とも存しなかつたので、同町事務吏員坂木仲市が町長職務代理者として職務を執行し、梅本明が同町選管委員長であつたが、同人は不在者投票事務については不慣れで明るい方ではなかつたこと、同町には大字高戸所在の町役場(本庁)の外に同町大字樋島を管轄する同町樋島出張所と同町大字大道を管轄する同町大道出張所(同所長は大森義治)が存在し、不在者投票の事由を証明する町長の事務並びに不在者投票事務は、同町事務吏員兼町選管職員の資格をもつて、荒田耕作、池田某(主として樋島出張所管内)、大森義治(大道出張所長として同出張所管内の事務)、木場長四郎と入口熊敏ら(主として町役場直轄管内の事務)において取扱つたのであるが、町役場、町出張所に対し郵便によらず直接不在者投票事由の証明書を請求する者に対しては、右の者らにおいて一面町吏員の資格をもつて、(町役場執務者は上司の決裁を得て、)乙第七号証の一ないし五五(ただし二〇と五一を除く)に見るとおりの証明書を作成交付するとともに、他面町選管事務従事者の資格をもつて、同証明書により即時不在者投票をなさしめたこと、そして不在者投票事由の証明書請求(従つて不在者投票の請求)者に対し、同請求が法第四九条、令第五二条その他不在者投票に関する法令の規定に合致しないことを理由として、請求を拒否したことはなく、多くは請求者のいうところを聞いたままですべて不在者投票をなさしめており(乙第七号証の二〇、五一記載の選挙人を含む)、そして不在者投票に関する町役場吏員兼町選管事務従事者としての事務の執行はいわばルーズであつたこと(この点について前示証拠及び(1)(2)の認定の外、例えば証人寺崎幸男、寺崎恭子の証言等参照)が推認される。前示各証言のうちこの認定に副わない部分は採用しがたい。

1 乙第七号証の一(滝下秀雄)関係。

乙第七号証の一、成立に争いのない乙第二二号証の一ないし三、第二三号証の一、証人天草盛三の第二回証言、同証言によつて内容の真正であることを認める第二三号証の二、証人木場長四郎の第一回証言(後記排斥部分を除く)を総合すると、滝下秀雄は竜ケ岳町樋島居住の船舶所有者に船員として雇用され、船舶引取りのため昭和三六年八月一日から水俣市へ赴いて、同月一二日に竜ケ岳町高戸に帰家する予定であるとて、同年七月三一日不在者投票をしたい旨を町役場吏員兼町選管事務従事者として不在者投票に関する事務を担当した木場長四郎に請求したのであるが、かかる場合は、選挙当日竜ケ岳町外で船員としての業務に従事中であるため、自から投票所に行き投票することのできないことは、雇主(または代理人、船長、以下本項につき同じ)において知るところであるから、雇主において、その旨の証明書を発行交付すべきで(令第五二条第一項第一号の者がない場合であるという疎明もなく、正当な事由によつて同第一項の証明書を提出することができないという疎明もない)、町長職務代行者において発行交付すべきでないのにかかわらず、不在者投票をなさせる前提として、右木場長四郎は違法にも乙第七号証の一の証明書を作成してやり、同証明書により即時滝下秀雄に不在者投票をなさせたことが認められる。ところで右を形式的に見れば、町選管は、滝下秀雄が町長職務代理者名義の乙第七号証の一の証明書をもつて不在者投票事由を証明したので、不在者投票をさせたに過ぎず、選挙の管理執行については、いわば第三者である町長職務代理者の違法な証明書によつて生じた不在者投票であるともいえないこともないが、これを実質に即して考えると、町選管としては右証明書が違法なものであることを当然知り得た筈である以上、違法な証明書によつて即時軽々しく不在者投票をなさしめた点に選挙の管理執行の違法があるといわなければならない。この点は以下に述べる2、3、5ないし10、12、14ないし29に関しても同様である(なお各当該個所に挙示の証拠をも参照)。

2 乙第七号証の二(滝下貞喜)関係。

乙第七号証の二によれば、同証明書は、八月五日本渡(市)へ旅行のためと記載してあるだけで、法第四九条、令第五二条所定の証明書としては不十分であるから、これによつて同月四日滝下貞喜に不在者投票をさせた(甲第五号証の一、二参照)町選管の措置は違法である。また同号証、証人荒田耕作(第一、二回)、滝下貞喜の各証言によれば、滝下貞喜は町役場吏員兼町選管事務従事者である荒田耕作に対し「八月五日朝一番の午前六時竜ケ岳町発のバスで、本渡市の労働基準監督署に行くから不在者投票をさせてくれ。」と請求したところ、荒田耕作は他の不在者投票事由について確かめることなく直ぐ乙第七号証の二の証明書を書いてやり、これによつて即時不在者投票をさせたこと。八月五日は土曜日であるから本渡労働基準監督署は特段の事情がないかぎり一二時半頃までには執務を終えるし、竜ケ岳町と本渡市間はバスで二時間、船でも二時間半前後を要する程度であり、滝下貞喜は本渡で他に用務もなかつたのであるから、おそくとも午後投票所で投票できる時刻までには竜ケ岳町高戸に帰着して選挙当日投票所で投票をなしうることは、町吏員たる荒田耕作において知悉していた筈であるのに、滝下貞喜の請求するまま、不在者投票事由の疎明も、証明もないのに投票させた違法があることが認められ、これに反する証拠はない。

3 乙第七号証の三(柿本邦弘)関係。

甲第五号証の一、二、乙第七号証の三(証明書)によれば、柿本邦弘の不在者投票事由欄には、たんに八代市と記載してあるだけで、法第四九条、令第五二条所定の証明書としては不適法であるのに、町選管は八月一日柿本邦弘に不在者投票をなさせている違法がある。そして右各号証に、前記乙第二四号証の二、成立に争いのない同号証の一、証人天草盛三の第二回証言、証人柿本邦弘の証言(後記排斥部分を除く)を合わせ考えると、柿本邦弘は、知合いの八代市本町四丁目食料品卸商新村方に一時滞在し、集金の手伝いをしていたが、集金のため八月一日竜ケ岳町に帰来し、二、三日同町に居住した折柄、帰来したついでに不在者投票をしようと思い、八月一日町役場(兼町選管事務所)において、前示入口熊敏に対し、八代に行くから不在者投票をさせてくれと請求したところ、入口は不在者投票事由の有無を確かめることなく、乙第七号証の三の証明書を書いてやり、所定の証明書の提出も疎明もないのに即時不在者投票をなさせている違法が認められる。この認定に反する柿本邦弘の証言は乙第二四号証の二と対比して採用しないし、他にこの認定を動かす証拠はない。

4 乙第七号証の四(前川良一)関係。

甲第五号証の一、二、乙第七号証の四(証明書)によれば、同証明書の前川良一の不在者投票事由欄には、たんに富岡町と記載してあるだけで、不在者投票事由の証明書たり得べきものでないのに、町選管は違法にも前川良一に八月三日不在者投票をなさせている。原告は入口熊敏において前川良一の不在者投票事由を確認したというが、この主張に対応する入口熊敏の第二回証言は信用しがたいし、他に証拠はない。

5 乙第七号証の五(田中善治)関係。

甲第五号証の一、二、乙第七号証の五(証明書)によれば、同証明書の田中善治の不在者投票事由欄には、昭和三六年八月三日から同月七日まで八代市へ旅行のためと書いてあるだけで、不在者投票事由の証明書たり得べきものではないのに、町選管は違法にも田中善治に八月三日不在者投票をなさせている。証人田中善治の証言によれば、同人は助産婦が長男の嫁の胎児の位置が悪いので入院するように勧めたため、八代市の桑原病院に、八月三日朝七時頃竜ケ岳出航の船に乗船し、妻と自分の二人で嫁につき添い同病院に行き入院させ、入院後三、四時間で出産した。三日から六日まで同病院におり六日帰宅した。木場長四郎には嫁を八代の病院に入院させるので不在者投票をさせてくれといつて、不在者投票をしたというのであるが、妻と共に嫁につき添うて八月三日八代市の病院に嫁を入院させるのに男子である田中善治が、入院当日はとも角、同月六日まで病院に居て、選挙当日の八月五日竜ケ岳町の投票所で投票できないという事由の存することが、あらかじめ八月三日に予想されることは通常ではない。入院翌日の八月四日か、おそくとも投票の当日通常の投票所において投票をなし得る時刻までには、竜ケ岳町に帰来するのが通常であるといわなければならない。いずれにしても町選管は法令所定の不在者投票事由の存在せず、その証明書の提出も、不在事由の疎明もない田中善治に不在者投票をなさせた違法があるというべきである。

6 乙第七号証の六(鍬崎博幸)関係。

甲第五号証の一、二、乙第七号証の六(証明書)によれば、同証明書の鍬崎博幸の不在者投票事由欄には、昭和三六年八月四日から同月一六日まで、大阪市大正区泉尾松野町へ旅行のためと書いてあるだけで、所定の不在者投票事由の証明書たり得べきものではないのに、町選管は違法にも鍬崎博幸に八月三日不在者投票をなさせている。証人鍬崎博幸の証言を詳しく検討すれば、同人に不在者投票をなすべき所定の事由の存したとは認めることができないので、町選管が同人に不在者投票をさせたのは違法である。

7 乙第七号証の七(野村アイ子、宮下ナヲエ)関係。

乙第七号証の七の証明書(昭和三六年八月一日付)の右両名の不在者投票事由欄には、たんに姫戸村と書いてあるだけで、所定の不在者投票事由の証明書としては不適法である。証人入口熊敏の第二回証言、宮下ナヲエ、野村アイ子の各証言(後者は後記排斥部分を除く)によると、宮下、野村の両名は同年七月頃から姫戸村の同一旅館に住込み女中として雇われていた(野村が宮下より少し先に雇用された)ことが明らかである(これに反する野村アイ子の証言は採用しない。)から、選挙当日業務に従事中のため、自から投票所に行き投票することができない旨を証明する者は、その雇主またはその代理人であつて、町長職務代理者ではない。また後記26に認定のとおり、竜ケ岳町と姫戸との交通機関よりして、令第五二条第三項の疎明があつたとは認めがたいので、町選管が乙第七号証の七のような証明書によつて、前記両名に同月一日不在者投票をなさせたのは(甲第五号証の一、二参照)違法である。

8 乙第七号証の八(滝下小四郎)関係。

同年八月一日付の乙第七号証の八の証明書を見るに、その不在者投票事由欄には、たんに芦北方面と書いてあるだけで、所定の不在者投票事由の証明書としては、不適法である。同号証、前記乙第一九号証の四、乙第二五号証の二、甲第五号証の一、二、天草盛三の第二回証言、入口熊敏、滝下小四郎の証言(後者は後記排斥部分を除く)を合わせ考えると、町選管は八月一日滝下小四郎から「芦北方面に行くから不在者投票をさせてくれ。」と請求され、出発の日時、旅行の目的、選挙当日自から投票所に行き投票することができない事情などを確かめず、法第四九条本文、同条第二号、令第五二条所定の証明書も令第五二条第三項の疎明もないのに即日同人に不在者投票をさせた違法があることが認められ、滝下小四郎の証言中この認定に反する点は、乙第一九号証の四、第二五号証の二と対比し信用できない。

9 乙第七号証の九(田渕ミサヱ)関係。

同年七月三〇日付の乙第七号証の九の証明書を見るに、その不在者投票事由欄には、たんに熊本地方旅行のためと書いてあるだけで、所定の不在者投票事由の証明書としては不適法である。同号証、甲第五号証の一、二、証人田渕ミサヱの証言によれば、田渕ミサヱは昭和三六年五月から本件選挙当日後にかけて引続き熊本市の割烹店夕立荘に住込み女中として働いている者であるが、七月三〇日家事のためたまたま熊本から日帰りで郷里に帰つた際、本件選挙の投票所入場券がきていたので、不在者投票をしようと思い、町役場に行き、町役場係員に対し「熊本市へ行くので不在者投票をさせてくれ。」と請求したところ、なんにも聞かずに乙第七号証の九の証明書を書いてくれ、右町役場係員であり同時に町選管係員が投票用紙を出して即時不在者投票をさせたことが認められ、これに反する証拠はない。したがつて、田渕ミサヱの不在者投票事由の証明権者は同人の雇主(またはその代理人)であつて、竜ケ岳町長職務代理者ではないことが明らかである。しかしその点はしばらくおいて、右証明書が前説示のとおりそれ自体からして不適法であり、竜ケ岳町と熊本市との距離的関係を考えると、選挙当日まで中間になお四日の余裕がある七月三〇日に、右のとおりの不在者投票をなさせたことから見れば、原告主張のように、令第五二条第三項所定の不在者投票事由の疎明があつたものと解することはできない。田渕ミサヱに投票させたのは違法である。

10 乙第七号証の一〇(木場保子)関係。

同号証が記載自体よりして不在者投票事由につき所定の証明書たり得ない不適法なものであることは、乙第七号証の三、四、七、八に説示したのと同様である。そして、乙第七号証の一〇、甲第五号証の一、二、木場保子の証言によれば、法令所定の不在投票事由の適法な証明権者の適式な証明書の提出がなく、また所定の疎明もないのに、町選管は同年七月三〇日木場保子から「自分の現在地は熊本市下通町二丁目いつぷく食堂であるが、不在者投票をさせてくれ。」と請求され、他になんら不在者投票の事由について問いただすことなく、違法にも即時不在者投票をさせていることが認められる。

11 乙第七号証の一三(岩本ツヤ)、同一四(岩本吉三郎)関係。

乙第七号証の一三、一四の各証明書を見るに、その不在者投票事由欄には、七月三〇日から八月一〇日まで横浜市へ旅行のためと書いてあるだけで、法令所定の不在者投票事由の証明書としては不適法である。そして証人岩本吉三郎、岩本ツヤの証言によれば、令第五二条第三項所定の疎明があるとは認めがたい。要するに不在者投票の事由ありとは認められないのである。しかるに、町選管が昭和三六年七月二九日右両名に不在者投票をさせたのは(甲第五号証の一、二参照)違法である。

12 乙第七号証の一七(堀川義馬)関係。

同号証(七月二九日付)を見るに、堀川義馬の不在者投票事由の証明権者はその雇主の日本セメント株式会社またはその代理人であつて、竜ケ岳町長職務代理者でないこと、その記載自体から明白である。証人堀川義馬の証言によれば、同人は不在者投票をなした当時の前から引続き同会社八代工場の大月島鉱山に鉱員として勤務している者であり、真に不在者投票事由があれば、右八代工場長ないしは大月島鉱山の長(またはその代理人)から不在者投票事由の証明書の交付を受けて、投票する余裕があるばかりでなく、大月島鉱山への出勤を遅らせ、もしくは早退して、選挙当日投票所において投票することも不可能であつたとも認め難いので、町選管は法令所定の証明書ないし令第五二条第三項所定の疎明がないのに、堀川義馬に不在者投票をさせた(甲第五号証の一、二参照)のは違法であるといわなければならない。

13 乙第七号証の二〇(鎌田弘吏)関係。

乙第七号証の二〇(昭和三六年八月四日付竜ケ岳町教育長田中敬太郎の証明書)によれば、鎌田弘吏の不在者投票事由欄には、八月五日から宮崎県へ旅行のためと書いてあるだけで、法令所定の不在者投票事由の証明書たり得ない不適法な証明書であることが明白である。そして同号証、成立に争いのない乙第一七号証の一、二、証人鎌田弘吏の証言によれば、鎌田弘吏は竜ケ岳町大道小学校の教諭で、休養のため(イ)昭和三六年八月五日(年次休暇)(ロ)同月一四日から一七日まで四日間(特別休暇)(ハ)同月二五、二六日の二日間(同上)。家事整理のため(ニ)同月二八、二九日の二日間(年次休暇)の休暇が与えられたが、夏休みを利用し郷里の宮崎県都城市へ帰省のため同月四日竜ケ岳町の自宅を出発して(出発を一日延期し、八月五日早朝正規の投票を済ませて出発できないという事情はなにもなかつた。)帰省し、同月一八日帰宅したのであるが、町選管係員に対し同月四日乙第七号証の二〇を提出して「郷里に帰るから不在者投票をさせてくれ。」と請求したところ、係員において、何も聞かないで即時そのまま投票させたことが認められ、これに反する証拠はない。

右認定によれば町選管は法令所定の証明書の提出がなく、所定の疎明もないのに、鎌田弘吏に対し違法に不在者投票をさせたといわなければならない。

14 乙第七号証の二一(下川浩哉)関係。

同年八月三日付竜ケ岳町長職務代理者の証明書である乙第七号証の二一を見ると、下川浩哉の不在者投票事由欄には、たんに八代市へ旅行と書いてあるだけで、法令所定の不在者投票事由の証明書たり得ない不適法な証明書であることが明白である。そして、同号証、前示乙第一七号証の一、二、成立に争いのない甲第七号証の一、二、証人下川浩哉の証言によると、下川浩哉は竜ケ岳町立大道小学校の教諭で独身者であつたが、(イ)八月五日(休養のため)特別休暇、(ロ)同月七日(友人訪問のため)年次休暇(ハ)同月二一日から一四日まで(休養のため)特別休暇、一五、一六日(旧師訪問のため)年次休暇(ハ)同月二六日(友人訪問のため)年次休暇が与えられたので、休暇を利用し郷里の八代市に帰省するため、その前に不在者投票しようと思い、同月三日、竜ケ岳町の係員に対し「選挙当日は郷里の八代市に帰らなければならないから不在者投票したい。」旨請求したところ、同町選管係員は即時そのまま同人に不在者投票をさせたこと、同人は正式にはその任地である竜ケ岳町から無断で他に旅行することは法令上禁止されており、この点は別とするも、同人が八月五日に帰省しないときは、別の名義で八月六日でも帰省し得たことが認められ、これに反する証拠はない。右認定によると、町選管は法令所定の証明書の提出なく、疎明もないのに、下川浩哉に対し違法に不在者投票をさせたというべきである。

15 乙第七号証の二三(北村サヨノ)関係。

同号証(八月三日付竜ケ岳町長職務代理者の証明書)の北村サヨノの不在者投票事由欄には、新和町中田へ旅行のためと書いてあるだけで、法令所定の不在者投票事由の証明書たり得ない不適法な証明書であることが明白である。しかして竜ケ岳町大道出張所で町役場吏員(出張所長)兼町選管職員として前示のとおり職務に従事した大森義治の証言と右乙第七号証の二三とによれば、北村の不在者投票事由は、同人は盲人で新和村中田の親戚に招かれているというのであつて、それだけでは到底不在者投票の事由たり得るものではなく、竜ケ岳町と新和村中田の距離、交通関係を考慮に入れて、前記甲第七号証の一、二、北村サヨノの証言を検討すれば、同証言が真実としても、八月三日投票をなした同人に不在者投票をなすべき事由があつて、これが町選管に疎明された上で投票がなされたと認めることはできない。

すなわち、町選管が同人に不在者投票を許したのは違法である。

16 乙第七号証の二四(小浦信俊)関係。

同号証の記載自体に徴し、船員である小浦信俊の不在者投票事由の証明権者は、その雇主(またはその代理人、船長、本項において以下同じ)であつて、竜ケ岳町長職務代理者でないことが明白であり、証人小浦信俊の証言は益々これを裏付けるものであるから、乙第七号証の二四の証明書は、法令所定の不在者投票事由証明書たり得ない不適法な証明書というべきである。そして同号証及び前示甲第七号証の一、二によれば、小浦信俊は、八月一日不在者投票をなしているところ、小浦信俊の証言によれば、当時同人は三角港と倉岳の浦を往復する第二倉岳丸の機関長として乗船していた者で、第二倉岳丸は往復とも竜ケ岳町高戸(高戸が町役場所在地であることは顕著である)に寄港するので、本件において小浦信俊が町選管委員長に対して、正当な事由によつて雇主の不在者投票事由の証明書を提出することができないことを疎明したと解することはできない。右認定に反するかのような小浦信俊の証言は採用しない。町選管が同人に不在者投票を許したのは違法である。

17 乙第七号証の二五(小竹ユキ)関係。

同号証の小竹ユキの不在者投票事由欄には、熊本市へ旅行のためと書いてあるだけで、同書証は法令所定の不在者投票事由の証明書たり得ない不適法な証明書である。同人が令第五二条第三項所定の疎明をなしたという証拠はない。したがつて八月一日同人に不在者投票をさせた(甲第七号証の一、二)町選管の執行は違法である。

18 乙第七号証の二六(浜口礼子)関係。

同号証(八月一日付竜ケ岳町長職務代理者の証明書)を見るに浜口礼子の不在者投票事由欄には、たんに旅行のためと書いてあるだけで、同証明書は法令所定の不在者投票事由の証明書たり得ない不適法な証明書であることが明らかである。同号証、前記甲第七号証の一、二、成立に争いのない乙第一七号証の三、証人浜口礼子の証言(後記措信しない部分を除く)によれば、当時浜口礼子は竜ケ岳町立大道小学校の助教諭を奉職し同町大字大道に居住し、八月一日同町大道出張所において、乙第七号証の二六の証明書によつて不在者投票をなしていることが認められるところ、右認定の投票の日時、同人の職業、住所、大道出張所が同町大字大道に存すること、右証言、乙第一七号証の三を総合して、同人が町選管に対し正当の事由について乙第七号証の二六以外に令第五二条第一項所定の証明書を提出することができない場合における同条第三項の疎明をなしたと認めることはできない。右認定に反するかのような証人浜田礼子の証言は採用しない。すなわち、同人に不在者投票をさせた町選管の措置は違法である。

19 乙第七号証の二八(小川チズ子)関係。

同号証はその記載内容に徴し法令所定の不在者投票事由を証する証明書たり得ない不適法な証明書である。そして乙第一九号証の五、証人荒田耕作(第二回)、小川チズ子の各証言によると、小川チズ子は本件選挙の三年位前から熊本市内で住込み女中として働いていた者で、すでにその頃から竜ケ岳町に住所を有せず、従つて同町において選挙権を有する者でないこと、同人に不在者投票をさせた町選管担当係員荒田耕作において、このことを知つていたと認められる。

以上のとおり、いずれにしても、町選管が小川チズ子に不在者投票をさせたこと(乙第七号証の二八、成立に争いのない甲第六号証の一、二参照)は、違法である。

20 乙第七号証の三一(平野小夜子)関係。

同号証は、先に乙第七号証の一三、一四について説示したと同様不適法な証明書であり、証人平野小夜子の証言(後記措信しない部分を除く)、天草盛三の第二回証言、乙第二八号証の二、右乙第七号証の三一を合わせ考えると、平野小夜子が正当の事由によつて令第五二条第一項の証明書を提出できない場合にあたり、同条第三項所定の疎明をなしたとは認めがたい(右認定に反する証人平野小夜子の証言は採用しない)ので、町選管が同人に対し、七月二九日不在者投票をさせたのは(甲第六号証の一、二参照)違法である。

21 乙第七号証の三三(浜田紀子)関係。

同号証は先に乙第七号証の二〇について説示したと同様不適法な証明書であるばかりでなく、前示乙第一九号証の五、六、証人天草盛三、荒田耕作の各第二回証言、浜田こと米田紀子の証言を総合すると、米田紀子は昭和三六年四月末頃結婚し同年五月初め頃夫とともに住所を熊本市に移し、以来竜ケ岳町には住所を有せず、従つて選挙権を有しないこと、このことは乙第七号証の三三によつて、米田紀子に不在者投票させた町選管職務従事者荒田耕作(同人は乙第七号証の三三を事実上作成した者でもある)において知つていたことが認められるので、町選管としては当然米田紀子に投票をさすべきではなかつたのである。

以上、いずれも町選管が浜田こと米田紀子に不在者投票をさせたこと(前記甲第六号証の一、二参照)は、違法である。

22 乙第七号証の三四(川本博来)関係。

同号証は昭和三六年七月三〇日付竜ケ岳町長職務代理者作成の証明書であるが、同号証には、川本博来の職業店員、不在者投票事由欄には、七月三一日から熊本滞在のためと書いてあるので、町選管としては、それが雇用店の業務のためとすれば当然不在者投票事由の証明者は、店主(または代理人)であつて、右町長職務代理者が作成すべきものでないこと、もしそれが右の業務以外の他の用務もしくは事故のためであるとすればその記載は不適法であつていずれにせよ、同号証は法令所定の不在者投票事由の証明書たり得ない不適法なものであることを知了すべきところである。また荒田耕作の第二回証言、川本博来の証言、甲第六号証の一、二、乙第七号証の三四を合わせ考えると、川本博来は昭和三二年三月から引続き熊本市所在丸栄株式会社に住込み店員となつて勤め熊本市に住所を有している者で、本件選挙の選挙人でないことを、町選管事務従事者である荒田耕作において、つとに了知していること、しかるに同人において町選管係員として乙第七号証の三四の証明書によつて、川本博来に不在者投票をさせたことの各事実を認めることができる。

以上の認定によると町選管が川本博来に不在者投票をさせたのは違法であることが明白である。

23 乙第七号証の三五(木村カヨ子)関係。

昭和三六年七月三〇日付竜ケ岳町長職務代理者の証明書である同号証の木村カヨ子の不在者投票事由欄には、たんに七月三一日から八代へ滞在と書いてあるだけで、同号証は到底法令所定の不在者投票事由の証明書たり得ない不適法なものである。しかして、同号証、甲第六号証の一、二、証人木村カヨ子の証言、荒田耕作の第二回証言によると、木村カヨ子は昭和三六年七月初め頃から、八代市出町の割烹店さん次に住込み店員として働いていた者であるが、たまたま七月三〇日所用で帰家したので町役場吏員兼町選管事務従事者として、竜ケ岳町樋島出張所に執務していた荒田耕作(同人と木村カヨ子とは学校の同級生であつた)に対し、「この前から八代の出町で働いている。八月五日には来れないから不在者投票させてくれ。」と請求したこと、したがつて荒田としては木村カヨ子の不在者投票事由の証明権者は、その雇主(または代理人)であることに想到すべきであること、しかるに荒田は木村カヨ子の請求するところに従い即時不在者投票をさせたことの各事実を認めることができ、これに反する証拠はない。また本件において令第五二条第三項の疎明があつたという証拠はない。町選管が木村カヨ子に不在者投票をさせたのは違法である。

24 乙第七号証の三六(平岡武彦)関係。

同号証は竜ケ岳町長職務代理者が昭和三六年七月三〇日付で作成した証明書であるが、同号証には、平岡武彦の職業会社員、不在者投票事由欄には、七月三一日から伊丹市へ滞在のためと書いてあるので、先に乙第七号証の三四について説示したと同一の理由で、同号証は不適法な証明書というべきである。また平岡武彦の証言、荒田耕作の第一、二回証言(第一回証言中後記排斥部分を除く)、乙第七号証の三六、甲第六号証の一、二を合わせ考えると、平岡武彦は集団就職により昭和三六年三月二七日尼崎市南清水三菱電気株式会社伊丹製作所に入社し、その頃竜ケ岳町から伊丹市所在同会社の独身寮に住所を変更し住民登録法による転入届をなし、主食配給通帳の転出入届も了したところ、同人の兄の長女が死亡したので、勤務の会社から休暇をもらつて帰省し、たまたま同人の投票所入場券が配布されていたので、同月三〇日先に説示の荒田耕作に対し「兄の子が死亡したので伊丹市から帰つてきた。入場券がきていたからついでに投票して行く。」といつて不在者投票をなすことを請求したので、荒田耕作は即時その投票をなさしめたのであるが、同人も平岡武彦も共に樋島に居住し、年令も殆んど同年輩であることの事実が認められ、これらの事実から前示荒田耕作は平岡武彦が選挙権を有しないし、不在者投票をなさせるべきでないことを察知していながら投票をなさしめたものと認めるのが相当である。

すなわち、いずれの点からしても町選管が平岡武彦に不在者投票をなさせたことは違法であるといわなければならない。

25 乙第七号証の四一(谷口巖)関係。

先に乙第七号証の三五について説明したと同様、乙第七号証の四一は、その記載内容に徴し不適法な証明書であるばかりでなく、同号証、甲第六号証の一、二、証人荒田耕作の第一回証言、谷口巖の証言を合わせ考えると、谷口は昭和三二年頃から八代市宮地町の雑貨商店に勤め、運送手兼店員として働いていたが、昭和三六年七月下旬母病気の電報がきたので樋島の自宅に帰家し、二、三日滞在しているうち病気も快方に向つたし、店の方も忙しいので早く八代へ行かねばならない状態であつたので、八月一日その理由を町役場吏員兼町選管職員であつた荒田耕作に告げて不在者投票をなす旨請求したこと、従つて荒田耕作は谷口が使用人であつて、同人の不在者投票事由の証明権者はその雇主(または代理人)であることを了知した筈であるのに、あえて乙第七号証の四一の証明書を谷口のために書いてやり、続いて同証明書によつて即時同人に不在者投票をなさせたことが認められる。この認定事実に不在者投票請求の日、八代市と竜ケ岳間は航路二時間位であるという事実をも参酌すれば、谷口が町選管に令五二条第三項の疎明をしたと認めることはできない。要するに町選管が谷口に不在者投票をさせたのは違法である。

26 乙第七号証の四二(橋本久江)関係。

同号証、甲第六号証の一、二、証人橋本久江、荒田耕作(第一、二回)の各証言を合わせ考えると、乙第七号証の四二、従つて甲第六号証の二の橋本久枝は橋本久江のことを指すこと、久江は本件選挙の一年余前から姫戸のえびす屋旅館に住込み女中として雇われ働いていたが八月二日前示の職務を有する荒田耕作に対し「姫戸の旅館の女中をして働いている。八月五日は忙しくて投票に来ることができないから不在者投票をさせてくれ。」と請求したこと、従つて久江はその雇主(または代理人)の不在者投票事由証明書によつて投票すべきであるのに、荒田耕作は竜ケ岳町職務代理者名義の久江が八月二日から姫戸へ滞在のため選挙当日自から投票所へ行つて投票することができない見込みである旨の、乙第七号証の四二の証明書を書いて久江に与え、同証明書によつて町選管事務従事者として同人に不在者投票をさせたことの一連の事実が認められ、なお竜ケ岳町と姫戸間はバスで二、三〇分位の距離であることを参酌すれば(荒田耕作の第一回証言参照)久江が令第五二条第三項の疎明をなしたとは認めがたい。

以上の認定によると、町選管が久江に不在者投票をさせたのは違法であるというべきである。

27 乙第七号証の四三(打越山増義)関係。

同号証、甲第六号証の一、二、証人荒田耕作の第二回証言、打越山増義の証言を合わせ考えると、増義は八月二日前示職務を有した荒田耕作に対し「水俣に旅行するので、八月五日の選挙までには帰つてこれないから不在者投票をしたい。」旨請求し、旅行目的、内容を告知しなかつたのにかかわらず耕作は、乙第七号証の四三を書いてやり、これによつて増義に対し即時不在者投票をなさせたことが認められる。

右によると町選管は法令所定の証明書なく、疎明もないのに増義に不在者投票をさせた違法があるというべきである。

28 乙第七号証の四七(吉井直美)関係。

同号証自体からは法令所定の不在者投票事由の存することは認められない。そして同号証と証人吉井直美、荒田耕作の各証言(後者は第二回)を合わせ考えると、吉井直美の父は樋島で衣料品店を営む者で、直美はこれを補助手伝う者であるが、吉井直美は八月四日前示の職務を有する荒田耕作に対し、「五日盆の買物に熊本に行くから不在者投票をしたい。」旨請求したところ、耕作は五日の何時の船で出発するか、何時帰つて来るかなどについて反問することなく、乙第七号証の四七の証明書を書いてくれ、即時同人に不在者投票をさせたこと、ところで耕作は直美の父が衣料品店を経営し、直美はその経営の手伝いをなすことを了知しているので、直美の不在者投票事由の証明権者は父であつて、竜ケ岳町長職務代理者でないことを知つておる筈であること、竜ケ岳町から熊本へ行くには、通常竜ケ岳町午前五時五〇分発、同六時半発、同八時過ぎ発の船を利用するが(その後も数回出帆の船があることは周知のことに属する。)、吉井直美は八月五日午前六時半の船に乗船したこと、同人が同日投票を終えて午前八時過ぎの船を利用することができないという特別の事情は認められないので、荒田耕作が不在者投票事由の存否について確かめたとすれば同人は不在者投票をしないで五日投票所に行つて投票を終えて乗船したものと推認されること。

以上の事実が認められる。従つて町選管が吉井直美に不在者投票をさせたのは、所定の証明書の提出なくまた疎明もないし、不在者投票事由がないのに投票させた違法があるというべきである。

29 乙第七号証の三五(射場保雄)関係。

同号証の射場保雄の不在者投票事由欄には、たんに広島県大竹市栄町と書いてあるだけで、同号証は法令所定の不在者投票事由の証明書たり得ない不適法な証明書である。甲第五号証の一、二、乙第七号証の五三、成立に争いのない乙第三〇号証の一、証人天草盛三の第三回証言によつて成立を認める同号証の二、同証言によれば、射場保雄は、右乙第七号証の五三の証明書を提出して、七月三〇日不在者投票をなしているが、客観的に不在者投票事由の存在しなかつたこと、町選管兼町役場係員が射場保雄につき不在者投票事由を確かめたとすれば、その事由の存しないことが容易に判明したことが認められる。

町選管が同人に不在者投票をさせたのは違法であること明白である。

30 乙第七号証の五五(長船トミカ)関係。

同号証、甲第五号証の一、二、証人荒田耕作の第二回証言、当事者弁論の全趣旨を総合すれば、長船トミカは、乙第七号証の五五の証明書を町選管に提出し、八月四日不在者投票をなしているところ、同証明書の不在者投票事由欄には、八月五日から八代へ旅行のためと書いてあるだけで法令の定める不在者投票の事由があることを証明するに足るものでないばかりでなく、証人長船トミカの証言によると、同人は昭和三四年二月結婚し同年四月夫の勤務する宇部興産株式会社所在地の宇部市に住所を移転し、その頃婚姻届もなした(旧氏段下から夫の氏長船を称する届出)こと、従つて少くとも昭和三五年九月一五日現在の基本選挙人名簿に同人が登載されているのは違法であること。(乙第七号証の五五には同人の住所は竜ケ岳町大字樋島と記載されているので、樋島の不在者投票処理簿である甲第六号証の二に登載さるべきものであるのに、高戸のそれである甲第五号証の二に登載されていることは注意を要する。)要するに町選管は同人が有権者であるとしても、不在者投票をさせたことは違法であり、この違法を問わなくても、選挙権を有しない同人に不在者投票をさせたのは違法であるといわなければならない。

四  町選管の不在者投票に関する選挙の管理執行に違法あることは三の(一)ないし(三)に認定したとおりである。よつて三の(一)の六票、同(二)の一票、計七票を次点者堺進也の得票二、一〇一票に加えると二、一〇八票となり、三の(三)の(1)(2)の各一票計二票、同(三)の(3)の二票、同(三)の(4)の1ないし30の三二票、以上合計三六票を原告の得票数二、一二七票から控除すれば、二、〇九一票となり、次点者堺進也の前示得票数二、一〇八票より一七票少いので、本件選挙は選挙の管理執行の規定に違反し、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるときに当るものというべきであるから、他の争点について判断をなすまでもなく、(ただし後記五参照)本件選挙は無効であるといわなければならない。

以上の各認定判断にてい触する原告の事実上及び法律上の主張は採用しない。

五  選挙訴訟においては、投票自体の有効無効を審理すべきかぎりでないから原告が別記原告準備書面第三点2においてまた被告及び補助参加人らが被告準備書面(五)の(3)において、それぞれ主張する事実については、判断するかぎりでない。

よつて原告の請求を棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴第九五条第八九条第九四条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 池畑祐治 秦亘 佐藤秀)

(別紙)

原告準備書面

一、昭和三六年八月五日熊本県天草郡竜ケ岳町に於て町長選挙(以下本件選挙という)が行なわれた際原告及参加人堺進也が立候補し投票の結果原告が二、一二七票を得て当選し、参加人堺は二、一〇一票にて次点者となつた。

二、同年八月十一日参加人堺及参加人黒岩満は、竜ケ岳町選挙管理委員会(以下町選管という)に対し、本件選挙は無効であるとして選挙の効力に関する異議申立をした。

三、昭和三六年九月一日町選管は前記異議申立は理由なしとして之を却下した。

四、之に対し堺、黒岩両名は、被告に対し、「竜ケ岳町選挙管理委員会がなした前記異議申立却下の決定を取消す本件選挙を無効とする」趣旨の裁決を求めて訴願をした。

五、昭和三七年三月三日被告は、「昭和三六年九月一日竜ケ岳町選挙管理委員会が訴願人の申立てた選挙の効力に関する異議に対してなした却下の決定を取消し本件選挙を無効とする」裁決をした。

その理由とするところは、

第一、不在投票の管理執行について違法があり、且かかる違法は本件選挙の結果に異動を及ぼす虞があること

第二、開票立会人に関し違法があること

等から全般に本件選挙が公正に執行されたものとは認め難いというものである。

六、しかし乍ら、本件選挙は不在投票その他につき若干違法の点があつたとしても、全体的に概ね公正に執行され、何ら無効とすべき理由がないのに、之を無効とした被告の裁決は違法であるので、之が取消を求めるため本訴に及んだ次第である。

以下被告が違法だと主張する点につき反駁を加える。

第一点 不在投票阻害の問題

(一) 伊丹市の場合

1、被告の主張によると、不在投票用紙及同封筒(以下投票用紙という)を請求したものは、江口恵造、江口数已、江口道子、小川徳光、打越山初晴、浜本二三四、浜本作義、浜本澄造、松永正利、丸山恵、浜本幸吉、安井康雄、山中謙造、浜本義貞、野口塚雄、富永洋の一六名であり、安井、富永、野口、松永、小川の五名に対しては、適時に右用紙が送付され、江口道子は選挙人名簿に未登録であるから、右六名を除く十名に対しては、投票用紙の送付をおくらした点に選挙管理に違法がある。ところが十名の内、山中、浜本澄造、同作義、同二三四は帰郷投票したので、結局江口恵造、同数已、打越山、丸山、浜本幸吉、同義貞が投票を阻害されたというのである。

2、しかし乍ら、町選管は投票用紙の請求書及添付の証明書のいづれにも請求者の捺印がなく、又請求書が連名による同一筆跡で書かれていたので、右請求が本人の意思に基くものであるとの確認ができなかつたので、投票用紙の送付を留保したものであつて、何ら違法ではない。

なるほど請求書に捺印を求める規定はないかも知れないが、町選管は少くとも何等かの方法で本人の意思に基く請求であることを確認せねばならない。若しその確認ができないならば投票用紙を送付すべきではない。何故ならば被告が主張する通り、不在投票は投票方式としては例外的な方法であるから、その取扱については慎重を期すべきであるからである。前述の通り、本件では本人の意思に基く請求であることを、証明する最も有力なる資料である捺印がなく(拇印は本人のものかどうか第三者は判別できない)、他に本人の請求であるとの確認資料がないばかりでなく、却つて請求者一六名の氏名が同一筆跡により、連名にて記載されてあつたので、誰かゞ果して各本人の依頼に基いて代書したものかどうか、疑わしい事情もあるので、投票用紙の送付を見合せたわけであつて、この処置は極めて適正である。

現に次に述べる常滑市の場合には本人の意思とは全く無関係に、何人かによつて投票用紙が請求されている事実がある。

3、ところが八月二日伊丹市選挙管理委員会からの電話照会により、各本人の請求であることが確認されたので、町選管は直に投票用紙を送付したものであつて、たとえこの時が既に遅きに失したとしても、これは已むを得ないものであつて、町選管に何の手落もない。

4、然るに被告は町選管の前記の処置を慊らずとなし、八月二日まで待つことなく本人の請求に基くものであるか否かを調査すべきものであるというが、町選管が自発的積極的にか様な調査をしなければならない義務はない。被告はか様な遠隔の地にある用紙請求者につき、如何なる方法で如何なる調査をせよというのかわからないが、選挙を目前に控えて選挙事務に忙殺されている町選管に、到底そのような時間的余裕もなく、又経費もない。郵送による投票用紙の請求については、町選管の審査は形式的で足りるのであるから、請求が本人の意思に基くものであるか否かについても、町選管が積極的自発的に調査する義務がないことは明らかであろう。(高松高裁二七、一〇、一〇判決)。従つて前記六名について投票阻害の事実はない。

5、被告は不在投票については、特に厳格慎重な取扱を強調しながら、本問題については、請求書に捺印もないのに用紙を送るべきであるとの見解の下に、何故にかような粗雑と思われる処置を要求するのであろうか不可解である。

次の第四点(二)に記載する様に被告は不在者投票用の証明書に、町選管の押印がなくては、投票の際本人の確認ができないといつておるほど、本人であるか否を確認するに過敏であるならば、投票用紙の交付に際しても、同じく本人の請求によるものか否かにつき、慎重を期した町選管の前記の処置を非難するのは当らない。

6、仮に百歩を譲り町選管の前記の措置が違法であつたとしても、江口恵造、江口数已、打越山初晴、浜本義貞は選挙当時竜ケ岳町に住所を有せず選挙権を有しなかつたのである。(甲第二七号証)又丸山恵、浜本幸吉についても選挙当時は竜ケ岳町に住所はなかつたものと言わねばならないから、実際に投票を阻害されたものはないのである。

(二) 常滑市の場合

1、被告の主張によると、投票用紙を請求したものは中村清春、中村とみ、中村清、広田剛、中村ふじ子、高木義雄、坂口いき子、福井文子、佐々木茂記、洲上時義、中本光憲、藤木光義、岩下光昭、橋本恒太郎、橋本恒広の十五名であり、中村清春、同とみ、同清、同ふじ子、佐々木、坂口、福井の七名に対し適時に右用紙が送付され高木、橋本恒太郎、橋本恒広は選挙人名簿に登録されてないので、右十名を除く五名に対しては、投票用紙の送付をおくらした点に、選挙管理に違法があるところ、五名の内、洲上、中本、藤木は用紙を請求したとは認められないし、岩下はその頃乗船航海中のため投票が不能であつたとみられるから、結局広田剛が投票を阻害されたというのである。

2、しかし乍ら町選管は伊丹市の場合と全く同様な理由により、投票用紙を送付しなかつたもので、この処置が適正であることは前記のとおりである。

なるほど請求者の証明書の名下には、拇印はあるが拇印は果して本人のものであるか否か第三者は判別できない。現に中本、洲上、藤木は請求の事実がないことを被告は裁決書に於て認定しており(甲第二号証)、又岩下、橋本恒太郎は証明書の同人名下に拇印があるにもかかわらず(甲第十一号証の三)、全く請求した事実がないことを証言している。

かような事情の下に於て町選管が広田に対する投票用紙の送付を留保したのは、蓋し適正なる処置であると言うべきである。

尤も伊丹市に投票用紙を送付した際、常滑市からは何らの照会もないのに用紙を送付した事実から考えれば、送付を留保したことが適正であるとの町選管の信念が動揺したとみられる節がないでもないが、たとえそういう事があつたとしても、当初町選管がとつた送付留保の処置が適正であつたことにかわりはない。

3、而して右記の様な場合、町選管が積極的に真実本人の請求にかかるものであるかどうかについての調査をする要がないことは、前記伊丹市の場合にのべた通りである。

4、仮に百歩を譲り町選管の前記の措置が違法であつたとすれば、投票を阻害されたものは広田一名であるが、同人も選挙当時既に竜ケ岳町に住所を有しなかつたと見るべきであるから、実際上、投票を阻害されたものとは言えない(広田剛、福井フミ子証言)。

第二点 無効不在者投票の問題

(一) 本問題は従来潜在無効投票として取扱われ、この主張自体は当選訴訟の原因と考えられていたが(仙台高裁三一、四、三〇判決 最高裁三一(オ)八一七・一一巻五号八九四頁)、近頃不在者投票の管理執行に著しい違法があれば選挙無効の原因となり得る場合が判示されている。

しかし本件不在者投票に於ては、或は若干その取扱につき違法の点があると仮定しても選挙自体を無効ならしめる程の違法はない。

(二) 凡そ不在投票の要件は

1、選挙権を有すること

2、不在者投票事由が存在すること

3、不在者投票事由の証明書(又は疎明)があること

であるが、3の要件は、2の要件を確保するための要請である。従つてたとえ、証明書の書き方が幾分簡略すぎたり、或は方式に多少の違法があり、或は証明者に多少の問題があつたとしても、町選管に於て、2の要件即ち不在者投票事由の存在を確認しておれば、不在者投票を無効とする何らの理由も見当らない。証明書がなくても不在者事由が確認できればよいとする判例もある(二四(オ)二一最高裁民事判例集三巻六号一七六頁)。之に反し、たとえ形式的に3の要件を充たしておつても、実際上2の要件を欠いておれば、その不在者投票は無効である。

被告が3の要件を絶対不可欠のものとして、証明書の完全無欠を主張して、いさゝかでも不適式のものは悉く無効であるというのは、前記の理論を理解せざるものと思う。

以下順次乙第一号証の一乃至乙第七号証の五五記載の不在者投票が有効であることについて述べる(乙第四号証を除く)

1、乙第一号証ノ一乃至乙第三号証ノ九の証明書について

イ 選挙当日投票所に於て投票できない旨の文言がない点

なるほど、前記乙第一号証の一乃至一八には、単に「現在地に於て当事業所労務者として勤務している事云々」とあり、乙第二号証の一乃至一七には「当所に現在雇傭中である事云々」とあり、乙第三号証の一乃至九には「左記の住所において建設作業員として事業に従事している云々」と、記載されているのみであつて、選挙当日投票所に於て投票できない旨の文言(以下単に不在文言という)がないことは、被告の指摘するとおりである。

しかし乍ら選挙人が送付して来た投票用紙請求書には当日投票所に於て投票できない旨の記載があり(甲第二五号証の一乃至一〇甲第二六号証ノ一乃至九)、且前記の証明書を添えて遠隔地より郵便によつてわざわざ投票用紙を請求して来た事実を考えるならば、証明書自体に投票所にて投票出来ない旨記載されていなくても、同証明書に記載されている労務に従事中のため、選挙当日投票所に於て投票できないものであることが、容易に推認されるのであつて、結局この証明書は已むを得ない職務のために、選挙当日投票することができない旨の証明であると言い得るのである。又乙第二号証の一乃至一七は、請求書と同一用紙に記載されており、請求書に通信投票したい旨が記載されているので、証明書の部分に重複して不在文言を記載する必要はない。

なるほど証明書自体に不在文言が記載されておれば、これに越したことはない。又法施行規則第十号様式にも、不在文言が記載されているが、この文言がないものは証明書として効力がないというのは誤りである。たとえ証明書に不在文言がなくても、投票用紙請求書にその旨の記載があれば、町選管が遠隔地より郵便にて請求した前記の事情を勘案して、請求者が選挙当日投票所に於て投票ができないものと認定したことは違法ではない。

ロ 不在期間の記載がない点

前記乙各号証には不在期間の記載がないことも争わないが通信投票を希望する文言を記載して、不在投票用紙を郵便により請求して来た以上は、請求日より少くとも選挙当日迄は、尚当該業務に従事中の見込であることを十分に考察されるのであるから、不在期間の記載がなくても不在証明としては有効である。

ハ 証明日附がない点

乙第一号証の五、七、十二、十五、十七、乙第三号証の一、六、七、八には証明の日附はない。

しかし之を同封して不在投票用紙を請求して来たものである以上、請求をした日、又はその頃の発行と考えられるので、不在事由の証明としては有効である。

ニ 証明者の表示の点

乙第一号証の四、十四、十五、十八には代表者の表示と捺印がない。

之も方式としては稍不十分であるが不在事由の証明力は十分である(判例東京高裁二三、一二、二五日判決、最高裁民事判例集一七巻一号一一三頁)

ホ 被告は第一点(二)に記載する様に、常滑市よりの投票用紙請求に対しては、速やかに送付すべきであつたのに、町選管が送付しなかつたのは正当な理由がなく違法であると主張する。

そこで常滑市よりの請求書に添付された証明書(甲第十号証の三、五、七)と、乙第一、二、三号各証を比較してみるに、双方いづれも証明書の文言は同一趣旨(乙第三号証の一乃至九は甲第十一号証の三、五、七と全くの同一文言)であり、不在文言なく又不在期間の記載なく、且証明日附もない。

にもかゝわらず、被告が常滑市よりの請求に対し送付しなかつたことを違法とせらるゝのは、之に添付してある証明書に不在文言なく、不在期間の記載なく、且証明日附がなくても尚且、同請求書及同証明書を以て不在事由を確認し得ると考えられたからに違いない。そうでなければ同様の証明書の添付ある二つの場合の請求に対し、一は送付すべしとなし、他は送付すべからずと矛盾した解釈を、被告がされる筈はないからである。

即ち前記イ、ロ、ハ、ニ、の場合も尚不在証明として有効であることを被告自ら承認されているのである。

2、乙第五号証について

この証明は町総代によつてなされている。町総代は町長に準ずるものとして、同人の作成した証明書は不在事由の存在の証明力を有する。尚不在文言も、不在期間の記載もないが、不在投票用紙を郵便により請求して来た事実、又居所が遠隔の津市であることを考慮すれば、選挙当日投票所で投票することができない旨の証明は、十分にされているので違法ではない。

3、乙第六号証について

この証明書には不在文言も不在期間の記載もないが、不在投票用紙を郵便により請求して来た事実と、請求者が帰郷困難な船舶乗組員であることを考慮すれば、選挙当日投票所に於て、投票することができないことは、十分に証明されている。

尚証明者は事業所の長であるから、この点にも違法はない。仮に右乙第四、五、六号証の場合証明者が不適法であつたとしても、この点の違法は軽微であつて、全然証明書がないのに投票用紙を送つた場合と異なり、投票を無効ならしめることはない(最高裁民事判例集十一巻一二号一八九一頁)。

4、乙第七号証の一乃至五五について

(イ) なるほど証明書の不在事由の記載は簡略であり、又中には不在期間の記載がないものもある。しかし乍らこの証明書は、郵送して来たものと異り、之を作成するに当つては町役場の吏員(同時に町選管の職務従事者)が、不在事由、行先、用務、不在期間等につき、選挙当日投票できない理由を詳細厳密に質問調査した結果、之を作成したものである。従つて不在事由の存在については、十分なる審査を経たものであるが、係員多忙と証明書の不在事由の記載欄が狭小のため、簡略に記載したものに外ならない。証明書には、不在事由をなるべく詳細に記載することは、前記様式にあるとおりであるが、之は訓示規定であつて絶対有効要件ではない。前述した様に、実際に不在事由が存在すれば不在投票は有効である。乙第七号証の場合は、町選管が全部不在投票事由が存在することを確認して、投票させたものであるから、悉く有効である。

左に不在投票事由を各人につき述べる

(書証 氏名 不在投票事由)

乙七ノ一 滝下秀雄  証明書の記載自体より八月一日から十二日までの間、水俣市へ用務のため旅行することが明らかである。用務の詳細については記載がないが違法ではない。況んや町選管の従事者である木場長四郎が、不在投票事由を調べた際滝下が水俣にある船を竜ケ岳町に引航してくるための旅行であることを確認している(木場一回証言六七)ので、違法の点はなく法第四九条第二号に該当する。

乙七の二 滝下貞喜  証明書には八月五日本渡へ旅行のためとあり、用務の内容は不明である。しかし同人はかねて業務上負傷し入院加療中であつたが、四日本渡市労働基準監督署から病状検査のため八月五日午前九時に出頭するよう通知を受けたので、本渡は始めて行くところで、地理の案内も所要時間もわからず、五日朝投票して行つたのでは到底九時に間に合わぬと考えた(これは尤もである)ので、この事情を係員に話したところ係員は不在投票事由ありと認めたもので、違法の点はない。

乙七の三 柿本邦弘  証明書に商業八代市とあり、用務は不明である。しかし同人は八月一日頃八代市の新村商店にて店員として働いており、偶々竜ケ岳町方面に集金のため高戸に来た際、八月五日選挙に来ることは仕事の都合で困難であるから不在投票をさせてくれと係員入口に話した(柿本証言)ので投票を許された。

八代と高戸間は船で片道二時間であるが、往復すればやはり一日はつぶれてしまう。人に使われておれば選挙のために店を休むことは主人に言いにくいものである。それよりも折角来たのだから不在投票をしたいというのは人情であろうし、又この様な場合に不在投票を許すことは決して違法ではない。むしろできるだけ多くの選挙民に投票させようというのが、不在投票制度の趣旨である。殊に住民の多くが他町村に出稼に行つている当町の如きに於ては、その必要は益々大である。従つて柿本の場合も、已むを得ぬ用務のため他町村に滞在中のものとして、住所地の町長の証明書により投票させても違法はない。若しどうしても柿本は、他町村に於て業務に従事中の者と解すれば、業主の証明書がより適当であるかも知れない。しかし仮に証明者が適当でなかつたとしても、町選管従事者が自ら直接不在投票事由を認定したものであつて、投票を無効ならしめる程の違法はない。又八代の業主の証明書を提出させることはこの場合不可能であつた(若しそうすればこの投票はできない)から、結局業主の証明書を提出できない旨の疏明がある場合に該当するので違法ではない。

証明者について若干適当でない点があつたとしても、不在投票事由が存在する限り全く証明書がないものと異り、この投票によつて何ら選挙の自由と公正が害されたものでないから投票を無効ならしめる理由はない(最高裁民事判例集十七巻一号一一三頁)。

乙七の四 前川良一  旅行の用務については、同人の申出によれば、富岡町にある船に乗込む為にすぐ来いとの通知が来たので富岡町に行き、船に荷を積込む仕事をせねばならぬという事だつたので、入口係員が不在投票事由があると認めたものである(入口第二回証言九)。これから船員になるのであるから、住所地の町長の証明書で支障ない。

乙七の五 田中善治  八代市へ旅行とある。しかし用務の内容は長男の嫁がお産のため急いで八代市桑原病院に入院することになつたので、看護のため八代に行くためである。この事情をきいて木場係員は、不在投票事由があると認めて投票させた。証明書の記載は極めて簡単であるが、不在投票事由に該当する。

乙七の六 鍬崎博幸  証明書は大阪市・・・松野町へ旅行のためとあり、用務が不明である。同人はその頃働いていた大阪の勤務先をやめて、竜ケ岳町に帰つて居つて、新しい就職口を大阪の従兄に依頼してさがしていたところ、従兄から就職口があるから大阪に来いとの通知を受け、急いで上阪するため、係員にこの事情を話して不在投票した。同人は日雇であるから、一日も遊んでいることはできず、就職口があるとの通知が来れば、急いで上阪するのは当然であつて、八月五日まで待たせることは酷であり強いて待たせようとすれば棄権の外はない。証明書の記載は不十分であるが、投票は無効ではない。投票後大阪からの通知で上阪を延期したことは問題外である。

乙七の七 野村アイ子  証明書には姫戸村とあるのみで、用務が不明である。しかし同人は八月二日から姫戸村のえびす屋旅館に女中として働くので、五日は忙しくて投票に来ることができない事が予めわかつていた。この事情を係員に話したので、投票を許されたものであつて投票は違法ではない。

乙七の七 宮下ナヲエ  証明書には姫戸村とあるのみで、用務は記載していない。しかし同女は姫戸村のえびす屋旅館に夏の間だけ臨時に女中として働いているものであるが、八月五日は特に多忙のため投票に来ることができないので、その事を係員に話して投票を許された。

右両名とも不在期間は記載されていないが、之は終期がはつきりわからなかつた為であるが、八月五日投票することができないことは係員によつて確認されている。尚宮下は臨時に夏だけ姫戸村で働くものであるから、已むを得ぬ用務のため他町村に滞在中と解して住所地の町長の証明書で差支えない。若し強いて他町に於て業務に従事中の者であると解すれば、業主の証明書が適当であるかも知れぬが、選管の係員自ら不在投票事由を確認した場合に業主の証明書をわざわざ取りに帰らせなくても、業主の証明書を提出できない旨の疏明があるものと解して、投票させることも咎めるべきではない。

証明者に若干問題があるとしてもこの投票が有効であることは、乙七の三の場合に述べた通りである。

乙七の八 滝下小四郎  証明書には芦北方面とあるのみである。その用務は同人は熊本県芦北に山林を買受けて、坑木として伐採させていたが、その外にも山林を買入れたく物色中、恰度今なら山林の買入れができるから至急来いとの通知を受けて、その旨を入口係員にくわしく話して投票を許されたものである。同人の証言は動揺しているが、右の事情を係員に話したことは疑ないので、これをきいて不在投票事由があると考え投票させたことに違法の点はない。

乙七の九 田淵ミサエ  証明書には熊本地方旅行のためとあり、用務は記載されていない。同人はその頃熊本市で女中をして働いていたが、用件で帰郷したので投票した。その際何も言わずに川本啓吾から投票用紙を貰つたと証言する。しかし川本の証言によれば、川本は選挙事務には関係なく、田淵には投票なら入口に申出でる様告げただけで投票用紙を渡したことはないのであつて、これが真実である。この証明書は村上女事務員の字であるが、入口又は村上か田淵から何もきかずに熊本に旅行と記載する筈はない。入口は田淵が熊本に働いていて帰宅したので今日投票したい、八月五日は投票に来られない旨を申出たので、投票を許したものであつて違法ではない。又この場合熊本に帰つて雇主の証明書をもらつて来らせることはできない相談である。業主の証明書を提出できない旨の疏明あるものと解せられるのでこの投票も無効ではない。

乙七の一〇 木場保子  同人は、三六年八月頃熊本市のいつぷく食堂で働いていたが、日曜以外に休がないので、七月三十日日曜日を利用して投票のため帰省した。同人は不在投票ができねば八月五日投票するつもりであつたというが、人に雇われている者として、むしろ日曜日に投票するのが本人としても又雇主としても希望している。

この様な事情の下では八月五日は仕事の都合で投票できぬものと認めて不在投票を許しても違法ではない。

尚証明者が業主でないからといつて必ずしも本投票が無効とならないこと、むしろ業主の証明書を提出できない旨の疏明あるものと解すべきものであることについては、乙七の三に於て述べた通りである。

乙七の一一 下村幹雄  証明書自体から、同人が船員として会社の用務で乗船するため、東京都に旅行するので八月五日投票することができないことが確認される。同人が新に船員となる場合は問題はないが、既に同人が船員であれば船長の証明書が適当であろう、しかし船長の証明書がなくても、選管の係員が、下村は船員であつて現在乗船中であることを確認して投票を許した場合は、証明書を提出できない旨の疏明あるものとして、投票は有効であることは前記乙七の三、乙七の一〇に詳述した。

乙七の一二 上村光則  証明書自体から、同人が日雇として昭和三六年七月三〇日から同年九月一五日頃まで、大阪方面に出稼のため旅行することが認められる。竜ケ岳町の日雇は殆ど他町村、殊に大阪方面に出稼に行くのであつて、決して物見遊山に行くのではない。日雇は一日もゆつくり遊んでおれない。八月五日の投票日を待つてはおられぬ。この場合已むを得ぬ用務のための不在投票として有効である。

乙七の一三 岩本ツヤ 乙七の一四 岩本吉三郎  両名は選管係員に対し、孫の結婚のしらせがあつてそれに出るために横浜市に旅行する、投票日までおれんから不在投票をさしてくれと申出でたので、係員は不在投票事由があると認めて投票させた。証明書には用務の内容は省略して記載してなかつたが、不在投票は有効である。同人等の証言によれば、投票の際竜ケ岳町を引払つて横浜に移住するつもりでいたようであるが、同人等は係員にその事を言つていないから、係員としては申出通りに受取つて不在投票を認めたものである。勿論投票は有効である。

乙七の一五 瀬浜重志  同人は船員で、船は昭和三六年八月五日頃は一週間位山口県笠戸船渠株式会社に入渠中であつて、瀬浜は三日間の休暇を利用し帰省中、七月三十一日入口係員にその事情を話して投票を許されたものである(甲第二八号証の一、二)。証明書には大阪方面旅行のためとあるが、之は何人かが船員として大阪方面に航海することをさしている。尚証明者は船長が適当であるが、本件は山口県笠戸に引返して船長の証明書を取つてくることは到底不可能であるから、かような場合は証明書を提出することができないことを疏明したものと解することができる。勿論この投票は有効である。

乙七の一七 堀川義馬  証明書自体により、投票日他町にて業務に従事中のため投票不能であることが認められる。同人は八月五日は勤務の都合(交替要員がいない)で投票ができぬので、七月二九日は時間ができた為、役場に出頭して証明書を弟に書いてもらつた。之を選管係員が事実を確認した上町長の印を押したもので、この投票は有効である。又この証明者は、住所地の町長でよい。堀川は毎日竜ケ岳町より通勤しているからである。若し強いて業主の証明書を要するとすれば本件の場合その証明書をとりに八代に行けばこの投票はできなくなるから、業主の証明書を提出できない旨の疏明があつたと解することは違法でない。いずれにせよ投票は有効である。

乙七の一八 寺崎幸男  証明書は自三〇日至八月二〇日熊本市へ旅行となつている。同人は胃潰瘍のため八月一日から本渡の病院に入院することを夏休前から予定しておつたので、その事情を係員に話して不在投票をしたものである。然るに証明書には本渡市となつておらず熊本市となつているのは、本渡の病院が空室がない時は熊本に行くことを同人又は妻が係員に話したからである。入院のためと書かなかつたのは、係員が診断書がない場合は入院では都合が悪いと考えた為だと思われる(住所地の町長の証明書で十分であるのに)。従つて証明書は申出た事項と若干相違しているが、係員は、直接本人から事情をきいて、十分に不在投票事由があることを確認したのであるから、この投票は有効である。

乙七の一九 寺崎恭子  夫幸男の入院の看護に行くものであつて、不在投票事由を十二分に確認されている。証明書が事実を忠実に表わしていない事情は前述の通りであるが、投票を無効ならしめる程の違法はない。

乙七の二〇 鎌田弘史  証明書には八月五日から宮崎県へ旅行のためとある。同人は係員に対し八月五日から休暇で宮崎に帰省することを話して証明書を提出した。ところで教諭の休暇には特別、年次の休暇と自宅研修とがある。しかし名目は違つても内容は概して同じである。

教諭は短い休暇を利用して帰省し、或は自宅で研修し、或は墓参し、又は休養するのである。教諭は割当られた期間に休暇をとらねば、他の日と休暇を繰替えることは不可能である。鎌田は八月五日から休暇を利用して帰省するので、その前日に不在投票をしたのであつて、之も已むを得ぬ用務ということができる。同じく本号証に自宅研修と記載されている山下桂一の投票は有効で、それを書かなかつた鎌田の投票は無効であるというのは、あまりに形式に拘泥しすぎ、不在投票を許した法の精神を解しないものである。

乙七の二一 下川浩哉  証明書には八代市へ旅行とあるのみであるが、八月五日が休暇割当日であるから(乙十七の二)、八代市に帰省する為前々日に不在投票したものである。ところで小学校教員の休暇は夏休中でも自由にとれるというものでなく、一々校長の許可を受けねばならず、常に三分の一の教員が学校に残つていなければならない関係上、会議によつて各人に割当られるのであるから、許された日に帰省して、自宅研修、墓参、休養等の諸事を済まさねばならない。与えられた休暇日を最高度に利用しなければならない。八代市は竜ケ岳町とは航路二時間の距離であるが、往復すれば一日かかつてしまう。かような事情があれば、休暇を利用して八代市に旅行することも已むを得ない用務と解しても違法ではない。この様な理由では不在投票ができないというならば、下川は休暇を棒に振つてしまうことになるし、かくては不在投票制度の精神をも解さぬこととなる。この票も有効である。

乙七の二二 森繁美  証明書には本渡市へ旅行とあるも、用務の内容は、同人は養鶏養豚をしていたので、農協の推薦で八月五日本渡市に於て開かれる県主催の家畜人工受精種の講習会に出席するため、本渡市に行くのである。同人は係員大森義治にその用務の内容を述べたので、大森は不在投票事由があると認めて投票させたものであつて、証明書の記載は簡略であるが投票は有効である。

乙七の二三 北村サヨノ  証明書には新和村中田へ旅行のためとある。同人の母は病気で益々具合が悪くなつたので、母が新和村中田にいる母の妹を看護のため急いで呼んで来てくれと頼むので、その為に新和村に行つたわけである。この事情を係員に申出でて投票を許されたのである。同人は用事の内容は言つていないというがそれは現在記憶しないだけで、用事の内容は必ず言つたであろうし、係員も必ず尋ねた筈である。他の不在投票の場合に於ても、必ず係員は用件の内容をたづねていることが不在投票者の各証言によつて明らかであるから、北村の場合に限り用件の内容をきかなかつたとは考えられない。この投票も有効である。

乙七の二四 小浦信俊  証明書には船員、出航の為とあり、この記載自体から他町にて業務に従事する為八月五日の投票ができないことが認められる。同人は第二倉岳丸の船員で、交替要員及天候の都合で八月五日投票できる見込がなかつたので、その旨を係員に話した後投票を許された。証明書は絶対に船長でなければならぬものではなく、住所地の町長の証明書でもよい。同人は竜ケ岳町の自宅に時時は帰宅しており、又毎日竜ケ岳町を含め周辺を航海しているものであるからである。

強いて船長の証明書を必要とするならば、之を提出することができぬ旨を疏明したものと考えることも可能である。この投票も有効である。

乙七の二五 小竹ユキ  同人は高齢のため証言ははつきりしない。しかし二、三年前の暑いとき兄の三三回忌のため熊本に行つたと証言している。証明書に熊本市へ旅行の為と記載されているのは、この用務を指したものと信ぜられるので投票は有効である。

乙七の二六 浜口礼子  証明書には教員、旅行の為とあるが、旅行の用務は八月一日から六日までの夏休を利用して、熊本に帰省し、墓参の上ダンスの講習会に出席する為である。小学校教員の休暇は極めて厳格に割当られ、期間も短かく、各人の自由にならないため、休暇を利用して帰省することも已むを得ぬ用務と解せられることは、乙七の二〇鎌田、乙七の二一下川の場合と同様である。

乙七の二七 亀川改造  証明書には福岡市・・・へ要用のため旅行とある。同人方には福岡市馬出本町にいる同人の息子の子供二人が夏休を利用して滞在していたが、一人が病気になつたので、急いで子供らを福岡につれていくことになり、福岡に行けば旅費の関係もあつて、一ケ月位は滞在することになるので、係員にその旨をくわしく述べたのである。この投票が有効であることは多言を用しないと思う。

乙七の二八 小川チズ子  証明書には女中熊本に旅行のためとある。同人は不在投票の二、三日前熊本市横手町逢莱閣旅館の主人の妻の母から、同旅館が忙しいのでしばらくの間でもよいから手伝つてくれ今日の昼の船で熊本に行つてくれと頼まれたので、急いで熊本に行く為、その事情を荒田係員にくわしく話して投票をした。証明書の記載は簡略であるが有効である。

乙七の二九 渡辺スミ子  (職業石工とあるは渡辺文雄の職業の書損)、同人は不在投票する前に下浦町の夫の母から、密柑の木のまわりにロハ草を植えねばならない、植えれば農協から補助金が貰らえるから、農協の検査の日まで日時があまりないから至急手伝に来てくれと三回も電話がかかつて来たので、至急下浦町に行くことにしてその事情を荒田係員に話した。帰つて来るのは十日間位かかるが、くわしくはわからぬといつたと証言している。この投票は有効である。

渡辺文雄  (職業家事従事者とあるのはスミ子と書き違つている)、同人の不在投票事由はスミ子と全く同じである。スミ子の証言では主人は渡辺藤男というがこれは文雄の通称であろう、スミ子の主人が渡辺文雄であることはスミ子のいう藤男の生年月日と文雄のそれとが一致することより推認される。勿論この投票は有効である。

乙七の三〇 佐藤ひさ  証明書には山鹿へ旅行とある。同人は八月一日から山鹿の主人の家に行き、三日頃から雲仙に行き、そこで三泊四日の予定で開催される保母及幼稚園教諭の夏季保育大学に参加し、それから本渡に於て行なわれる県保母の会主催の講習を受ける予定であつて(夏季大学には毎年同人は参加しており三六年も早くから申込んでいた)、八月五日の投票はできないことを荒田係員に話した。荒田はこの予定をくわしくきいたが、証明書には用務の内容を記載しなかつたが投票は有効である。

佐藤が選挙がうるさいので逃避のため不在投票をしたということは、事実無根である。

乙七の三一 平野小夜子  同人は三六年七月頃、同人の主人の父が鹿児島県の西方温泉に、神経麻痺の治療に行つていたので、この看病をしていた主人の姉と交替するため鹿児島に行くので、不在投票をしたもので、係員荒田にこの事情を話したので、荒田は不在投票事由があると認めたのである。投票は有効である。

乙七の三二 池田尚代  同人は、毎年八月に雲仙で開かれる朝日夏季保育大学に参加するため、一旦八月一日苓北町の実家に帰つて準備をして、三日雲仙に行き、五日夕方苓北町に帰宅する、翌六日には本渡のダンス講習を受け、又その後熊本の音楽講習会に参加し、一六日まではいろいろな行事に加わる予定であつた。同人は荒田係員に大体の行動予定を話し、殊に八月五日は船の便が悪くて投票できないことを述べたから、不在投票を許された。証明書には苓北町に滞在と書いてあるが、之は最初の目的地のみを記載したものであり、期間は池田が行事に参加する期間を記載したのであるが、八月五日雲仙の夏季保育大学参加のため、不在であることは係員が確認しているので、投票は有効である。

乙七の三三 浜田(米田)紀子  同人は投票日頃、熊本市で中学校に通学している弟二人のせわをしていたが、弟の夏休のため一旦樋島の実家に帰宅しており、八月一日から上の弟の高校入学のための補習教育が始まるので、之に参加させるため、弟をつれて熊本に行く必要があつた。この事情を荒田係員に話して不在投票をしたのである。荒田はこの事情は不在投票事由に該当すると考えたもので、投票は違法ではない。

乙七の三四 川本将来  同人は、熊本丸エイ株式会社に店員として働いていて、毎月初に出張日程を組むのであるが、八月五日は竜ケ岳に行くことができないので、七月三〇日実家に帰宅した際樋島出張所に出頭して、翌三一日から熊本に行くので、八月五日は仕事の都合で投票ができないので、今日投票したいと荒田係員に話したので、投票を許された。ところでこの場合の証明書は、雇主の証明書が適当であろうが、これを取りに帰らせれば投票はできなくなるので、結局棄権の已むなきに至るであろう。かような場合は、雇主の証明書を提出できない旨の疏明があるものと解して、不在投票をさせることは違法ではない。

乙七の三五 木村カヨ子  同人は七月三〇日不在投票に際し、荒田係員にこの前から八代に行つている、道具(或は洋服)をとりに帰つて来たが、明日は八代に行く、八月五日は店の方が忙しくて投票に来れないから不在投票をしたいと申出たので、荒田は已むを得ぬ用務で八代に滞在するものと認めて投票させたのである。

尚八代で働いている場合は雇主の証明が適当であろうが、この場合も雇主の証明を提出できない旨の疏明があると解することは違法ではないので、投票は有効である。

乙七の三六 平岡武彦  同人はその頃伊丹市で働いていたが、兄の長女が死亡したため竜ケ岳町に帰宅し、直に伊丹市に帰らねばならないので、八月五日の投票をすることができない旨を荒田係員に話した。荒田係員は已むを得ない用務で伊丹市に滞在するものと認め、町長の証明書で投票させたことは違法ではない。強いて業主の証明書を必要とするならば、本件の場合は急いで帰省したため、業主の証明書を提出することができない旨の疏明があるものと解することができることは、前記木村カヨ子の場合と同様である。

乙七の三七 井上美井子  同人は、昭和三六年八月雲仙で行なわれる朝日夏季保育大学に、七月に参加の申込をしておつたので、之に参加すべく八月一日一旦郷里松橋に帰つて、二日から雲仙に行く予定で、それから熊本の附属幼稚園で行なわれる音楽講習会に参加した上、十六日頃竜ケ岳町に帰つてくることを荒田係員に申出た。八月五日投票ができない理由は夏季保育大学参加のためで已むを得ぬ用務である。

乙七の三八 桑原ジユサ  下関の長府(同人はこんな表現をしている)に嫁入りしている、同人の娘に赤坊が生れるから早く来いとの電報を受取り、そのことを係員に申出でて、不在投票をしたもので、已むを得ぬ用務であるからこの投票は有効である。

乙七の三九 竜本スギヨ  同人は大阪にいる子供から、病気であるからすぐ来いとの電報を受取り、急いで大阪に行く為不在投票をしたものである(甲第二九号証)。荒田係員は已むを得ぬ事故のため、八月五日に投票できない事情を確認して投票させたもので違法ではない。

乙七の四〇 井上武久  同人は、八月三日か四日頃から熊本県上益城郡の郷里に帰り、それから本渡で開催される技術家庭課講習会に参加するので、八月五日は投票できないからその事情を荒田係員に話した。荒田は已むを得ない用務のため不在となるので、投票を許したが、証明書には最初の行先である上益城郡だけを記載したが、投票は有効である。

乙七の四一 谷口厳  八代市にてオート三輪車の運転手として働いていたが、昭和三六年七月末母の病気看護のため、竜ケ岳町に帰つたところ母の病気もよくなつたので、運転手の交替要員がない関係で急いで、八代に戻ることになり、投票日まで居ることができない。同人はこの事情を係員に話したので、係員は已むを得ぬ用務で八代に滞在するものと認めて不在投票を許した。厳格に解すれば雇主の証明書を適当とするかと思うが、この場合はその証明書を提出することができない(母の病気のため急いで帰郷したので)旨の疏明があると解しても違法ではないので、投票は有効である。

乙七の四二 橋本久江  同人は、姫戸村えびす屋旅館の女中であつたが、八月五日は団体客のため多忙であるから、到底投票できない見込であるからその旨を申出でた。係員は已むを得ぬ用務のため他町に滞在するものと考えて不在投票をさせた。この場合も前者同様雇主の証明書を適当とするかと思うが、業主の証明書を提出することができない旨を疏明したものと解することも違法でない。何故ならば選管従事者が自ら申出人と問答して、八月五日の不在投票事由を確認しているのであるから、之を無効とする理由はないからである。

乙七の四三 打越山増義  同人は、八月一日水俣市にいる同人の妻の弟小道三代喜から、貨物船を買いたいが素人なので相談したいので来てくれという手紙を受取つて、小道には兄弟が少く話相手がないので、相談にのつてやらないと困るだろうと思つて八代に行くことにきめ、水俣に行けば八月五日投票はできないから、この事情を荒田係員に申出でたので、荒田は已むを得ぬ用務であることを認め不在投票を許したものである。打越山の証言では水俣に行く用務の内容と、八月十五日までとは言わなかつたというが、他の不在投票の場合に各証言で明らかである様に、係員が行先だけをきいて、用務の内容を尋ねない事は考えられないし、八月十五日を荒田が一人で勝手に書き込んだとも思われない。打越山の証言は記憶がうすれていると考えられる。要するに証明書の記載は簡略であるが、不在投票事由はあるので投票は有効である。

乙七の四四 荒田静子  同人は、かねて足と脊髄が悪く治療を受けていたが、昭和三六年七月末から急に痛み出し、とても八月五日まで待てない状態になり、益々悪化しそうに思われたので、八月四日熊本済生会病院に行き、診察次第では入院するつもりでいたので、八月五日は投票できない見込であつたから、その旨を弟の荒田係員に話して不在投票をしたものである。これは已むを得ぬ事故のため熊本に滞在するのであるから、不在投票事由がある。証明書の記載が簡略のため投票が無効であると主張するのは本末顛倒の議論である。

乙七の四五 木下ヨシノ  同人は、八月二日晩富田炭坑にいる同人の息子から嫁が手術するのですぐ来いとの電報を受取つたので、翌三日看病に行くことにして、若し行けば八月五日には帰宅する見込がないので、この事情を荒田係員に話して不在投票をした。

富田炭坑には用向き次第では日帰りができるが、木下の場合は手術の看病であるから到底帰宅投票は見込がないのであるから不在投票事由は十分である。

乙七の四六 戸山銀造 米田正輝  竜ケ岳町では昭和三六年八月に行なわれる臨時海技従事者国家試験に備えて、臨時船舶職員養成講習会を開催していたが、その受験願書類は主催者が一括して門司市の九州海運局船員部船舶職員課に、八月七日までに提出することになつていたので(乙十八号証の一、二)、役場担当吏員である両名が、受講者百二十名の願書類を九州海運局に持参するため、荒田係員に事情を話し不在投票をしたものである。八月四日に門司に出発したのは百二十名に及ぶ願書類を、期日までに完全に受理して貰うためには、数日前から海運局に提出して審査を受ける必要があつたからである。若し書類不備のために受理されないことになると、次回の試験まで待たねばならぬことになるので、主催者の町役場の職員として職責上、なるべく早く書類を提出しようとしたものであつて、この不在投票には何ら違法の点はない。

乙七の四七 吉井直美  同人は、父が経営している衣料品店の盆(八月十三日頃)の売出用の衣料品の仕入に熊本に行くものであつて、一日も早く行かねば良い柄がなくなると思つて非常に急いでおつたので、八月五日午前六時より行われる投票を済ましては遅くなる。この事情を荒田係員に話したので、荒田は已むを得ぬ用務のため八月五日は不在であると認め、投票を許した。吉井は荒田には仕入に行くとは言つていないと証言するが、荒田は吉井の家業が衣料品屋であり、熊本に買物に行くといえば商品の仕入であることはよく知つていたので、不在投票の事由があると考えたのであつて違法の点はない。

乙七の四八 岸田マチ子  同人は、大阪の横田株式会社に女工として採用されることが決定し、一日も早く来てくれとの通知が来ておつたので急いで大阪に出発するため、その事情を荒田係員に話して不在投票をしたものである。勿論投票は有効である。

乙七の四九 島崎克行  同人は、昭和三六年九月二五日頃に行なわれる船舶職員国家試験を受験するため、三角町に下宿してそこで実施されていた船舶職員講習会に参加していたところ、八月四日は既に受けて来た講習科目の最後の日に当つていたので受講しなくてもよいが、翌五日は新たに難解な航海術、運用術、法規等の科目の講習が始まるので、最初の基礎から勉強する必要があり投票できる見込がないので、八月四日この事情を係員に話して不在投票をしたものである。係員には船舶講習の都合で明日は投票に来ることはできぬといつたと証言しているが、係員は同人が本来船員であつて、現に国家試験の準備のため講習を受けておつて、その講習の都合で八月五日は投票できぬと言えば、それ以上くわしく問う迄もなく已むを得ぬ用務のため他町に滞在していることを認めたものである。尚島崎はその頃雇止となつていたので住所地の町長の証明書で差支えはない。この投票は有効である。

乙七の五〇 松江金盛  同人は、貨物船金盛丸の船主兼船長であるが、八月三日大阪から帰港し翌八月四日、鹿児島阿久根にある、かねて専属的に貨物運送契約を結んでいる大阪の株式会社谷嘉商店阿久根駐在所に向つて、貨物積込の為出港する為不在投票をした。

八月五日の投票まで待てないのは、早く荷物を取りに来いとの連絡があつたことと、一日でも休まずに働かねば生活ができないので急いでいたからである。

荒田係員には今から船を下すので旅行でよいではないかと言つた様であるが、同じ部落に住んでいる荒田は船長である松江が船を下すといえば積荷のために鹿児島県阿久根に航海することがわかるので、已むを得ぬ用務のための不在投票と認めたもので勿論有効である。尚松江自身が船長であるから住所地の町長の証明書で投票することは違法ではない。

乙七の五一 辻本伊作  同人は高戸中学校長の自七月三十日至八月十日関西方面へ旅行と記載した証明書を提出した上、選管係員には中学校の卒業生の就職口のことで大阪、名古屋方面を旅行してその職場を訪問して来るからと事情を話して不在投票をした。

同人は本渡の職業安定所と郡の就職斡旋連絡会が連絡して教師とP、T、Aと三〇人位が団体をつくつて卒業生の職場を訪問してどんな状態で働いているかを視察して将来の就職斡旋の参考とするもので、辻本はその一員として之の団体に加わるのであるから、已むを得ぬ用務のため八月五日の投票はできないからこの投票は有効である。

乙七の五二 舛木喜一  同人は、投票の頃土工として働いていた辻本建設の工事が終つたので、生活のため一日も休まず働かねばならないので、松島町で土建工事の入札があるときいて、松島に仕事を探しに行くことになり、八月五日まで一週間近くも待つことはできないので、この事情を入口係員に話して不在投票をした。同人は松島町に実家があるので、そこに滞在して仕事を探す為八月五日は投票することができないものであるから、已むを得ない用務のため不在投票をしたものに該当し有効である。

乙七の五三 射場保雄  竜ケ岳町の者は殆んど他町村に出稼に行く者が多く、同人も大工として広島県大竹市栄町にて働くため旅行したことが推認されるので投票は有効である。

乙七の五四 寺島義人  投票の前、大阪で防熱の船大工の仕事を終り高戸に帰つて遊んでいたとき、八月二日防熱工事の下請負会社である株式会社井上静夫商店から「仕事があるので神戸の川崎重工業に行け」との速達便を受取つた。同人の仕事は期間が短かく早く行かねば他の人を雇つてしまう恐があつたので、四日に神戸に行くことにして木場係員にこの事情を話して投票をした。不在期間については同人は一ケ月位といつたと証言しており、証明書には八月十五日までとなつている、仮にこの点に不一致があるとしても八月五日已むを得ぬ用務のため不在となることは疑わないので投票を無効ならしめる理由はない。

乙七の五五 長船トミカ  昭和三六年六月頃から、同人の主人の父が八代の病院に入院しており、主人の母がその看病のため八代に行き、杷島の主人の実家には子供ばかりであつたから、その世話をするため杷島の主人の実家に来ていたところ、投票日の前日八代の病院で父の看病をしている母と交替するため八代に行くことにして、その事情を係員に話して不在投票をしたものである。同人は母と交替する理由は母を帰郷させて八月五日投票させるためであつたと証言するが、長船が八代に行くのは結局母と交替してその間だけ父を看病するためであることに変りはなく、これは已むを得ぬ用務と解せられるので、不在投票を認めたことに何ら違法の点はなく投票は有効である。

右によつて十分に不在者投票事由が審査されたことを証明したが、投票者の証言を得ることができないものについても、町選管の職務従事者であつた、坂本仲市、木場長四郎、荒田耕作、入口熊敏、大森義治等の各証言によつて不在投票者全員につき完全なる不在事由があつたことを、審査認定したことを推認できる。又証明書に不在期間の記載がないものもあるが、係員は八月五日投票できないことを確認したものである。

5、凡そ不在投票事務は、その制度を設けた趣旨(できるだけ多くの人に投票の機会を与えようとする趣旨)に添えば、その解釈取扱は厳に失してはならず、又その制度が特別の投票の方式であることを考えれば、緩にすぎてはよくないわけで、これは極めて微妙な問題である。加うるに不在事由そのものについても、法規に具体的に明示したものはなく、判例による外はない実情であつて、法律専門家でもその解釈は容易ではない。

町選管職員は、多忙の中にあつてできるだけの知識をしぼり、誠意を以て前記の二つの異つた法の趣旨を探究しつつ、緩厳よろしき取扱を以て不在投票事務を執行して来たもので、不在投票の管理執行をでたらめにしたとか、不在投票制度を乱用した事実はない。或は不在投票の中には多少不在投票理由に疑問があり、又は証明者が適当でない場合もあるかも知れぬが、不在投票を無効ならしめる程の瑕疵はない。

6、不在者投票の制度が濫用され、これが為選挙の自由公正が害されることは厳に戒めなければならないことはもとより当然のことであるけれども、右の場合、証明書には会社通念上不在投票事由となり得ない事項が記載されているわけではなく、不在投票の事由となり得るものであるが、ただ記載が簡略であるため、疑を容れる余地があるというに過ぎないのであるから、これを全く証明力を欠くもの、又は証明書の提出がない場合と同視するのは決して当を得たものとは考えられない。

殊に強いて業主の証明書を提出させることは、その日の投票を断念させるに等しく、延いては勢八月五日の投票をも棄権させることとなるのである。棄権するのは、それが物見遊山等であれば当然であろうが、本件のすべては業務又は用務のために、八月五日の投票ができないのである。この事情を十分に係員に於て確認して投票させたものを違法であると解するのは、不在者投票制度に於ける公正を確保するための規定の趣旨を超えて、証明書の形式を重視するに偏し、選挙に於いて正当に表示された選挙人の意思を無視する結果を招くおそれなしとしない。殊に竜ケ岳町の如く多数の有権者が他町村に出稼に行つておる場合は尚更である。昭和三八年一月三一日最高裁判決(最高裁判例集十七巻一号一一三頁)は原告の右の主張を十分に認容しているものと信ずる。

第三点 第一点第二点の問題を通じ選挙の結果に異動を及ぼす虞はない。

1、原告は、本件選挙の管理執行については、全く違法はないと信ずるが、仮に違法の点があるとするも、それは全く事務職員の過誤に基くものであり、選挙の自由公正を害するものではなく、且選挙の結果に異動を及ぼす虞はない。

不在投票中無効とみられるものは一票(乙四)にすぎぬ。仮に百歩を譲つて他に若干を無効としてこの合計を原告の有効得票より差引いても尚堺の得票より多い。

2、ここで原告と次点者堺との得票差二六が果して正確か否かにつき検討する。

(本来原告は当選者であるから、当選訴訟に於ては別として、票自体の有効無効を論議することは許されないと思うが、選挙訴訟に於ては選挙の結果に異動を及ぼすかどうかは得票差を基準として考慮されるからこれが果して正確か否かを検討することは攻撃防禦方法として必要である。)

イ、無効投票中原告の得票であると主張するもの 一〇

(甲十二の一、二、三、四、乙九の一、二、三、四、五、六)

内五(乙九の二、三、四、五、六)は被告も原告の得票であることを認めている。残五も左記理由により原告の得票とすべきである。

(書証番号 数 理由)

甲十二の一、四 2  原告は通称一ちやん或は亡父の名前である市造とも呼ばれていたから、原告への投票とみるべきである。

亡父は死亡して既に久しく、又死亡後盛大な葬式を営んだので市造の記載は亡父をさしたものではなく、原告をさしたものである。(甲十六乃至二四号証)

甲十二の二、三 2  一ちやんを単に口又は○で囲んだにすぎず他事記載ではないから原告への投票とみるべきである。

乙九の一 1  以前竜ケ岳村長杉本を指したものでなく、辻本に投票すべく書き損じたものであるから原告の投票である。

ロ、無効投票中堺の得票であると被告が主張するもの四(乙八の一、二、三、四)、しかし之は左記理由により堺の得票と認むべきではない。

(書証番号 数 理由)

乙八の一 1  サカキはサカイの誤記でなく、竜ケ岳町長職務代行者坂木仲市をさしているもので、候補者でないものを記載しているから無効である。

乙八の二、三、四 3  堺候補に対する書き違いでなく、当地方選出の代議士坂田道太をさしているもので候補者でないものを記載しているから無効である。

ハ、堺の得票中無効であると原告が主張するもの六三(甲十三の一乃至六三)、内三(甲十三の十四、三十二、三十六)は被告も無効であることを認めているが、残六〇も左記理由により無効とすべきものである。

(書証番号 数 理由)

甲十三の一 1  堺と読めない、何人に投票したか不明であるから無効とすべきである。

甲十三の二、三、五、七、九、十六、四十一、六十三 8  「サカエ」、「さかえ」、「酒井セイヤ」、「さかエ」等候補者でない者の氏名を記載されているので無効。書損とはみられない。

甲十三の四、六、八、十二、十五 5  堺候補の外に他事記載があるので無効。

甲十三の一〇 1  「サカイ」と読めない「サカト」と記載され、候補者でないものの氏名を記載しているから無効。

甲十三の十一 1  堺候補の外に他事記載があるので無効。

甲十三の十三 1  「サイ」と記載してあり、何人に投票したか不明であるから無効。

甲十三の十七 1  「サカイ」と判読できないので、何人に投票したか不明である。

甲十三の十八、十九、二〇、二十一、二十二、二十四、二十五、二十八、二十九、三十三、三十七、三十九、四十四、四十五、四十六、四十七、五十、五十一、五十八、五十九、六〇、六十一、六十二 23  候補者の氏名の外に他事記載があるので無効。

甲十三の二六 1  堺候補の氏名を用紙の裏面に記載しているので無効である。

甲十三の二七 1  堺候補の記載とは認められないので、無効とすべきものである。

甲十三の二十二、三〇、三十五、五十四、五十六、五十七 6  候補者の氏名の外他事記載があるので無効。

甲十三の三一 1  何人に投票したか判読できず無効。

甲十三の三四 1  堺候補の姓を鉛筆で抹消しており、之は他事記載ともみられるので無効。

甲十三の三八 1  「サイカ」と記載してあり、堺候補への投票とは解せられない。

甲十三の四〇、四十三の五五 3  堺候補の名が違つているので無効。

甲十三の四二 1  「サイ」と記載してあり、堺候補への投票とは解せられない。又抹消した分は他事記載となるので無効。

甲十三の四八、四九 2  候補者以外の氏を書いているので無効。

甲十三の五二 1  堺と読めないから無効。

甲十三の五三 1  堺候補の氏名がないので無効。

ニ、原告の得票中無効であると被告が主張するもの四五(乙十の一乃至三四、乙十一の一乃至八、乙十二の一乃至三)

内一(乙十二の二)は原告が無効であることを認めたが、残四四は左記理由により原告の得票として有効である。

(書証番号 数 理由)

乙十の一乃至三四 34  原告は通称一ちやんと称されているから、原告への投票であることは疑ない。(甲十六乃至二三号証)

乙十一の一乃至八 8  辻本市造は、原告の亡父の名前であるが、原告は市造とも呼ばれていたし、又亡父は死亡して既に久しく、且死亡後盛大な葬式を営んだので、市造の記載は亡父をさしたものでなく、原告をさしたものである。

乙十二の一 1  「じや」というのは敬称であつて、他事記載ではないので原告の有効投票である。

乙十二の三 1  他事記載ではない。明に原告の有効投票である。

原告の主張の通りだとすれば、両者の得票差は二六より更に増大することとなる。

少くとも原、被告間争のないものを計算すれば、

原告は無効投票より、新に五票を加え、有効投票より一票を減じ、差引四票増加となり、

堺は有効投票より三票を減じ、両者の差は差引七票を増加することは間違ない。

以上の通り不在者投票の違法による無効投票が、本件選挙の結果に異動を及ぼす虞は益々薄弱となつている。

3、又前記違法のため無効となつた不在投票数を、原告より差引くのは已むを得ないとしても、之を堺の得票に加算することはできない、何故ならば本件の場合右の投票をした者は已むを得ぬ用務、又は事故のため八月五日の投票ができない者ばかりであるので、若し不在投票が許されなかつたと仮定したならば、投票日には殆んど確実に棄権したものと考えられるからである(不在者投票をした者の証言参照)。且投票したとしても、不在投票した場合に記載した候補者と異る候補者に投票したかも知れぬと考える蓋然性はないからである(前掲昭和三八、一、三一最高裁判決参照)。

第四点 常滑市に適時に送付された投票用紙に関する取扱の問題

(一) 中村清春外六名に対する用紙の送付は七枚であつて五枚ではない。

(二) 不在者投票証明書七枚全部に町選管の押印がなされた。

仮に証明書に押印がなかつたとしても、之を封入した封筒は厳封の上町選管の押印がなされていたのであるから、之を持参するものが本人であるとの証明力は十分であり、投票するに何の支障もなく且この投票は有効である。

(三) 仮に前記(一)(二)の場合投票用紙の取扱が違法であつたとしても、これは単に事務職員の過誤に基くものであり、又実際に於て中村等七名は投票をしようとしなかつたものであるから、投票阻害の問題は生じないので選挙無効の原因とならない。

第五点 無資格者を開票立会人とした問題

事実に争はなく形式的には違法であるかも知れない。

しかし開票事務は何等の支障も生ぜず、円滑に行なわれており、選挙の自由公正を疑うべき特別の事情も認められないので、選挙の結果に異動を及ぼす虞もなく選挙無効の原因とはならない。(証人木場長四郎、池田寿亀男、入口熊敏、大森義治、橋本松太郎の各証言)(判例最高一四巻一一号二〇四〇頁一一、一二、一八八七)

以上何れの点よりするも、本件選挙は有効であるので、請求の趣旨記載の御判決を求める。

以上

被告準備書面

(一) 本件選挙の二百八十余件に上る不在者投票中、その不在事由証明書の違法なものによる投票について。

A 不在事由証明書の事由記載が、単に「八代市」「富岡町」等と市町村名のみ記載されたもの、「熊本市へ旅行のため」の如く市町村名に「旅行」「滞在のため」等の文字を附されたに過ぎないもの、或いは○○に勤務していること、事業に従事していること等のみの証明であつて、その記載自体から、不在事由が不明であり、やむを得ない用務、事故又は職務等で選挙の当日投票所で投票が不可能であるという、所定の不在事由に該当しないと認められる証明書により、投票させたもの百二十名がある。その証明書と選挙人の氏名は(二)項に列記する。

B 不在事由証明書を交付するにあたつて、選挙当日投票所で投票することができないという、やむを得ない事由があることを認めるに足る審査をすることなく、選挙人の申出をそのまま認容して証明書を発行し、或いは不在者投票用紙等を交付するにあたつて、証明書に記載の不在事由の審査も行なわず、形式的に証明書が添付されていることだけをもつて足るとして、投票させたと認められるものが、被告の調査したところだけでも二十三名ある。その証明書と選挙人の氏名は、(二)項に列記する。なお、この区分に該当するものは、上記の外、他の区分の中にも多数存在すると推認される。

C 適法に証明権のある者の作成した、不在事由証明書によらないで、投票をさせたと認められるもの二十二名があり、その適正を欠ぐ証明書及び選挙人の氏名は(二)項記載のとおりである。

D 単に居住していることの証明、或いは単に船舶乗組員として滞在中という証明のみで、所定の不在事由に該当しないと認められるものによる投票四名があり、その証明書及び選挙人の氏名は、(二)項記載のとおりである。

E 本件選挙の当日、自ら投票所に行つて投票できない旨の証明もなく、不在者投票に関する証明であるか否か、不明なものによる投票六十七名があり、その証明書及び選挙人の氏名は(二)項記載のとおりである。

F 不在事由に不在期間の記載のない証明書、又は証明日付のない証明書による投票百三名があり、その証明書及び選挙人の氏名は(二)項記載のとおりである。

以上AからFに至る区分は、被告委員会において、便宜その不在事由証明書の違法事由を分類表示したものである。

(二) 前項において竜ケ岳町選挙管理委員会が不在事由証明書の適格性を欠くにも拘わらず不在者投票をすることを許容し、結局、不在者投票としてその効力を否定すべきものの証明書をAよりFに至るまで六種に区分したが、記述の煩を避けるため次表の上欄にAよりFに至る符号を掲げ、その下に選挙人の住所、氏名を記載し、その下欄に書証として提出する当該選挙人の不在事由証明書の証拠番号を記載する。但し、符号の重複するものは、その無効原因が一個以上存するものである。

以上(一)及び(二)において計百二十三名の違法な不在事由証明書による投票について述べたが、右証明書を見れば(一)項のBにおいても掲記した如く、所定の不在事由が、選挙人に存在するときに発行すべき不在事由証明書の発行事務、又は適法な証明書に基いて行われるべき、不在者投票用紙等の交付及び投票事務が、その全般にわたつて極めて粗雑に行なわれたことは明らかである。

本準備書(五)の(2)と裁決書(甲第二号証)の理由(五)に記載する違法な不在者投票三〇件の選挙人は次表通番号七五ないし八一、八五ないし八九、九五ないし九九、一〇六ないし一〇八、一一〇、一一三、一一五、一一六、一一九ないし一二二、一二四、一三三に記載の者である。

通番号

原因符号

選挙人の住所・氏名

書証番号

住所

氏名

大阪市東成区神路町一ノ五

山本重敏方 北本庄市

乙第一号証の一

若松市海岸通二丁目 三和海運株式会社

大道保

〃  〃    二

田口謙治

〃  〃    三

岐阜県大垣市旭町二丁目五番地

奥田孝忠

〃  〃    四

名古屋市熱田区伝馬町五ノ六七 富永力方

奥田久人

〃  〃    五

鹿児島県国分市敷根町中太田出水方

鬼塚一則

〃  〃    六

鬼塚アヤ子

〃  〃    〃

愛媛県喜多郡長浜町 住吉組海運社気付

須崎安喜

〃  〃    七

須崎孝

〃  〃    〃

一〇

糸川了

〃  〃    〃

一一

若松市南海岸通 西日本海運KK

鬼塚定雄

〃  〃    八

一二

鬼塚直志

〃  〃    九

一三

鬼塚安士

〃  〃    十

一四

鬼塚チヅル

〃  〃    十一

一五

大阪府堺市甲斐町西三丁 小田原方

森山実夫

乙第一号証の十二

一六

太田英親

〃  〃    十三

一七

戸畑市中原先の浜 大成建設赤松班内

竹下繁治

〃  〃    十四

一八

楠本重次郎

〃  〃    十五

一九

楠本久太郎

〃  〃    〃

二〇

川下小松

〃  〃    〃

二一

大阪市港区千代見町三丁目六番地

浜口久俟

〃  〃    十六

二二

浜口俟一

〃  〃    〃

二三

北垣房治郎

〃  〃    〃

二四

若松市海岸通二丁目 三和商運株式会社内

打越山ミツ子

〃  〃    十七

二五

戸畑市中原先の浜 大成建設宿舎赤松班

田口百松

〃  〃    十八

二六

庄原市本町

滝本聰

乙第二号証の一

二七

宮田マシヨ

〃  〃    二

二八

愛知県額田郡幸田町四八 西松建設安部寮

西岡澄代

〃  〃    三

二九

滋賀県大津市甚七町二七ノ五

小崎幸敏

〃  〃    四

三〇

福岡県戸畑市中原先の浜

田口百松

〃  〃    五

他に(乙第一号証の十八)

三一

田中米造

〃  〃    六

三二

滋賀県犬上郡多賀町佐月株熊谷組彦根作業所

山隅千年

〃  〃    七

三三

大阪市西成区桜通七の五

岡崎久次郎

〃  〃    八

三四

堀川春雄

〃  〃    九

三五

岩本国夫

〃  〃    十

三六

竹下竜雄

〃  〃    十一

三七

溝脇馨

〃  〃    十二

三八

岡崎広喜

〃  〃    十三

三九

京都市右京区梅津南広町六 内外織物工場

岩本マキノ

〃  〃    十四

四〇

庄原市本町

浦田力

〃  〃    十五

四一

小倉市神嶽町一丁目 富士田一市方

川口義行

〃  〃    十六

四二

小倉市中城野三丁目 長峰明方

平野恒作(策)

〃  〃    十七

四三

鞠子光国

乙第三号証の一

四四

東川巌

〃  〃    〃

四五

打越山英敏

〃  〃    〃

四六

庄川清松

〃  〃    〃

四七

桑原数義

〃  〃    二

四八

片岡元次郎

〃  〃    〃

四九

坂田正義

〃  〃    〃

五〇

桶本実敏

〃  〃    〃

五一

岩本寅夫

乙第三号証の三

五二

山下由造

〃  〃    四

五三

松岡時則

〃  〃    五

五四

山口勝則

〃  〃    〃

五五

竹本富子

〃  〃    〃

五六

奥添学

〃  〃    六

五七

松本初造

〃  〃    〃

五八

山道清信

〃  〃    〃

五九

寺田広実

〃  〃    〃

六〇

平床まつの

〃  〃    〃

六一

森下広子

〃  〃    〃

六二

森下灘夫

〃  〃    七

六三

森下静夫

〃  〃    〃

六四

高島保市

〃  〃    〃

六五

米田光三郎

〃  〃    〃

六六

山口光義

〃  〃    〃

六七

山下広春

〃  〃    八

六八

山下守男

〃  〃    〃

六九

山口勝

〃  〃    〃

七〇

西山徳次郎

〃  〃    〃

七一

段本金光

〃  〃    〃

七二

溝脇喜代次

〃  〃    九

七三

坂口義雄

〃  〃    〃

七四

瀬脇守

〃  〃    〃

七五

大阪府岸和田市本町二二三 秋山実穂子方

田中ミツ

乙第四号証

七六

三重県津市桜橋通り一の二〇二 伊藤隆方

浜田ミテ

乙第五号証

七七

水谷小太郎

乙第六号証

七八

水谷よしの

〃  〃

七九

熊本県天草郡竜ケ岳町大字高戸五五七五

滝下秀雄

乙第七号証の一

八〇

〃     高戸

滝下貞喜

〃  〃    二

八一

〃     大道一〇一六番地

柿本邦弘

〃  〃    三

八二

〃     高戸四〇五九

前川良一

〃  〃    四

八三

〃     〃  三五〇〇

田中善治

〃  〃    五

八四

〃     〃  五五八二

鍬崎博幸

〃  〃    六

八五

〃     〃  四一四一

野村アイ子

〃  〃    七

八六

〃     〃  五五八一

宮下ナヲエ

〃  〃    七

八七

〃     〃  五五七一ノ一

滝下小四郎

乙第七号証の八

八八

〃     〃  五五六九

田淵ミサエ

〃  〃    九

八九

〃     〃  五五五七

木場保子

〃  〃    十

九〇

〃     〃  三七七九

下村幹雄

〃  〃    十一

九一

〃     〃  四〇六九

上村光則

〃  〃    十二

九二

〃     〃  三五〇五

岩本ツヤ

〃  〃    十三

九三

〃     〃  三五〇五

岩本吉三郎

〃  〃    十四

九四

〃     大道二八一六

瀬浜重志

〃  〃    十五

九五

熊本県天草郡竜ケ岳町大字高戸九〇三

堀川義馬

〃  〃    十七

九六

〃     大道西浦

寺崎幸男

〃  〃    十八

九七

〃     〃   〃

寺崎恭子

〃  〃    十九

九八

〃     大道

鎌田弘史

〃  〃    二十

九九

〃     〃   又一七一二

下川浩哉

〃  〃    二十一

一〇〇

〃     大道一一九三

森繁美

〃  〃    二十二

一〇一

〃     〃  一一一四ノ一

北村サヨノ

〃  〃    二十三

一〇二

〃     〃  二一四八

小浦信俊

〃  〃    二十四

一〇三

〃     大道二一〇九

小竹ユキ

〃  〃    二十五

一〇四

〃     〃  一九七三

浜口礼子

〃  〃    二十六

一〇五

〃     〃  二〇九七

亀川改造

〃  〃    二十七

一〇六

〃     樋島一四五

小川チズ子

〃  〃    二十八

一〇七

〃     樋島

渡辺スミ子

〃  〃    二十九

一〇八

〃     〃

渡辺文雄

〃  〃    二十九

一〇九

〃     〃

佐藤ひさ

〃  〃    三十

一一〇

〃     〃

平野小夜子

〃  〃    三十一

一一一

〃     樋島

池田尚代

〃  〃    三十二

一一二

〃     〃

浜田紀子

〃  〃    三十三

一一三

〃     〃

川本博来

〃  〃    三十四

一一四

〃     〃

木村カヨ子

〃  〃    三十五

一一五

〃     〃

平岡武彦

〃  〃    三十六

一一六

〃     〃

井上美井子

〃  〃    三十七

一一七

〃     〃

桑原ジユサ

〃  〃    三十八

一一八

〃     〃

竜本スギヨ

〃  〃    三十九

一一九

〃     〃

井上武久

〃  〃    四十

一二〇

〃     〃

谷口巌

〃  〃    四十一

一二一

〃     〃

橋本久枝

〃  〃    四十二

一二二

〃     〃

打越山増義

〃  〃    四十三

一二三

〃     〃

荒田静子

〃  〃    四十四

一二四

〃     〃

木下ヨシノ

〃  〃    四十五

一二五

〃     〃

戸山銀造

〃  〃    四十六

一二六

〃     〃

米田正輝

〃  〃    四十六

一二七

〃     樋島

吉井直義

〃  〃    四十七

一二八

〃     〃

岸田マチ子

〃  〃    四十八

一二九

〃     高戸

島崎克行

〃  〃    四十九

一三〇

〃     樋島

松浜金盛

〃  〃    五十

一三一

〃     高戸二九一二の一

辻本伊作

〃  〃    五十一

一三二

〃     高戸二九二一

舛本喜一

〃  〃    五十二

一三三

〃     高戸二七八九

射場保雄

〃  〃    五十三

一三四

〃     高戸三一三八

寺島義人

〃  〃    五十四

一三五

〃     樋島

長船トミカ

〃  〃    五十五

(備考)

表中、次に掲げる一一名は、不在事由証明書を提出して、町委員会から、不在者投票用紙等の交付を受けたが、結局、投票するに至らなかつたものである。従つて、違法な証明書は一三五通であるが、これにより、現実に投票した者は、計一二三名である。

なお、表中の田口百松(乙第一号証の十八 乙第二号証の五)は、二通の証明書を出しているが、同一人物である。

(通番号)

(氏名)

(書証番号)

北本庄市

乙第一号証の一

現実に投票しなかつたとは云え、上記の者一一名に対して、町委員会は、違法な不在事由証明書により、不在者投票用紙等を交付しているのである。

大道保

〃  〃  二

田口謙治

〃  〃  三

須崎孝

〃  〃  七

十一

鬼塚定雄

〃  〃  八

十二

鬼塚直志

〃  〃  九

十三

鬼塚安士

〃  〃  十

十四

鬼塚チヅル

〃  〃  十一

二十六

滝本聰

乙第二号証の一

二十七

宮田マシヨ

〃  〃  二

二十九

小崎幸敏

〃  〃  四

(三) 原告は伊丹市から郵便による十六名(内江口道子は選挙人名簿未登録)の請求が、一枚の用紙に同一筆跡で連記してあり請求者の捺印のなかつた者十名について、竜ケ岳町選挙管理委員会(以下「町委員会」という)は、本人等の意思による請求でないとし、不在者投票用紙等を直ちに交付しなかつたことは適法であるというが、この場合町委員会は、右十六名分連記の不在事由証明書に基き選挙人に所定の不在事由ありと認めたならば捺印のあつた五名に対すると同様、直ちに不在者投票用紙等を交付しなければならなかつたのである。何となれば公職選挙法上右用紙等の交付請求書に請求者の捺印を求める規定はなく、かつ、請求者が、その場に居合わせた者に代筆を依頼することは通常あり勝ちなことであり、たまたま印を所持していた者が捺印することもあるからである。右捺印のあつた者五名のうち、二名は町委員会から郵送交付された不在者投票用紙等により、有効に不在者投票をなし得たことを見れば、町委員会が用紙等の交付を直ちに行なわず、このため被告の裁決書(甲第二号証)四頁下段に記載の理由のとおり、結局不在者投票を不能とせしめた六名の捺印のない者の交付請求に対する、不在者投票用紙等の交付事務は明らかに違法であり、伊丹市選管から同人等への用紙等の未交付理由を質されるまで、何らなすところなく右請求を受付けた七月二十九日から八月二日まで四日間も時日を徒過したことは、不在者投票事務への認識不足も甚だしいものであり、事務処理の粗漏、失態たるを免かれない。

被告の裁決書四頁下段にも記載のとおり、請求者の捺印がないこと及びその氏名が同一筆跡で書かれているので、本人の意思による請求であることが不明であることの理由のみで、直ちに用紙等の交付を拒否すべきでないことは勿論、かりに本人の意思による請求であるか疑わしい場合は、すべての法律行為と同様、本人の請求であるか否かを何らかの方法で調査すべきは当然のことである。

不在者投票用紙等の交付後、なおかつ、このような疑が残れば、本人でなく他の者が不在者投票をすることも考えられるので、当該請求者の投票後その居住先の市町村選挙管理委員会から竜ケ岳町委員会に送致される不在者投票について、竜ケ岳町の投票管理者又は開票管理者が受理、不受理(有効、無効)の決定をする判定の資料を得べく、その実情を調査しなければならないところである。

なお、かかる場合において、請求者の居住先の市町村選挙管理委員会は(本件では伊丹市又は常滑市)、不在者投票をしに来庁した選挙人が、選挙権を有する本人であるか否かを判定するため当該選挙人一人一人に対し、その持参すべき不在者投票証明書(本件の場合は竜ケ岳町選挙管理委員会委員長の証明でかつ封印した専用の封筒に在中し不在者投票用紙等と共に請求人に交付する)の提出を封筒封印のまま求め、これを調査し、当該選挙人が本人であるか、否か、を判定しなければならないのである。

右のように選挙における大原則たる本人投票を確認すべき資料となるものは、選挙人が住所地以外の市町村で不在者投票する場合、この証明書のみであるにも拘わらず、町委員会は、常滑市居住の請求人七名に対し一括して同一封筒に入れて送付し、しかも右証明書に委員長の証明印のあるものは一通にしか過ぎないという違法な交付事務を執つているが、このような事務処理は、前記の如く、厳格に執行すべき不在者投票事務に対する認識不足によるのは勿論のこと、明らかに無資格の開票立会人の立会を平然と許容した行為等とともに、町委員会の選挙事務全般に対する事務処理の粗雑さを窺がわせるものである。

(四) 町委員会は、淵上時義、中本光憲(城下光則改め中本光則のこと)、藤本光義の三名と広田剛及び岩下光昭の五名に対して、請求書に捺印のない事を理由に一度は用紙等の交付を拒否し、八月二日になつて交付している。町委員会が、常滑市居住十五名中名簿未登録三名を除く十二名の用紙等交付請求を、七月二十九日受付け、請求者の捺印がなく、同一筆跡の請求であつた右広田剛外四名に対して直ちに用紙等を交付しなかつたことは前記(三)項と同様に明らかに違法である。

町委員会は、前記伊丹市選挙管理委員会から電話を受けた後、即ち八月二日伊丹市居住の請求者十名に対して用紙等を郵送交付するとともに、同様の理由で交付しなかつた常滑市居住の前記五名に対しても、又突如として用紙等を郵送交付しているが、竜ケ岳町―伊丹市間より更に距離的に遠い、常滑市に八月二日郵送交付しても右五名が有効に不在者投票をすることができないことは、前記(三)に述べた理由と同様に明らかである。

なお、町委員会が、常滑市居住の請求者に対して、電話連絡等もなくて、八月二日用紙等を交付したことはその請求が同一筆跡、請求者の捺印のないことで、用紙等の交付を拒否すべきでないと自ら認めたことを示すとともに、不在者投票事務処理の粗雑さを一面には物語るものである。

(五) 原告は、違法な不在者投票三十七票があつたとしても、これを無効投票として各候補者の得票から差し引いて得票数を対比すべきもので、従つて選挙の結果に異動を及ぼす虞れはなく、しかも本件選挙において無効投票と決定された三十五票中には、当然原告の有効投票とすべきものが多数あり、原告の得票数は更に増加するので、結局本件選挙の結果には何等異動はなく、本件選挙は無効ではないと主張するが、次の理由により原告の主張は認められないものである。

被告の裁決書八頁(六)において記載のとおり

(1) 不在者投票の不能七件については、若し町委員会の違法な事務処理がなかつたならば、有効に投票が行なわれたものと推定され、かかる投票は候補者のいずれに投票されるものであつたか不明であるが、これらの投票がすべて次点者に投ぜられるものとして、その異動の可能性を判定しなければならない。

(2) 更に違法な不在者投票三十件については、若し町委員会の事務が適正であつたならば、用紙等の交付を拒否されたかも知れず、従つて選挙人は選挙当日棄権した者もあつたろうし、事実上棄権せざるを得ない者もあつたであろうし、又棄権しない者の投票についても不在者投票の場合と、選挙当日投票所でする場合(交付を拒否されなかつたが伊丹市から現に帰町して選挙当日投票した例もある。)と必ずしも同一候補者に対し投票するとは限らず、加うるに、以上の各場合においてその数は捕捉し難いものである。この種の違法な投票は一面においては、潜在無効投票の性格をもち、他面には潜在有効投票の性格を持つものであるから、まずこの違法を当選者に不利に、即ち当該投票がすべて最下位当選者に投ぜられたものとして、その得票数からこれを差し引き、この数を次点者に加えてその異動の可能性を判定しなければならない。

本件選挙の選挙会によれば原告(当選人)辻本市之助の得票数は、二、一二七票、次点者堺進也の得票数は、二、一〇一票と決定されているので、(1)、(2)によりその数三七票を次点者の得票に加えれば、二、一三八票となり、(2)によりその数三〇票を当選人の得票から控除すれば、二、〇九七票となり、両者の得票順位が変ることとなるが、その数は前記のとおりいずれも確定し難いので、本件選挙は、これをやり直さない限り選挙の結果が確定しないのである。従つて本件選挙は無効である。しかも、違法な不在者投票は、三十七票に限らず前記(一)、(二)で述べるごとく一二三票に達するのである。

なお、被告が、従来当選の効力に関する訴願により、当該投票の効力を審査した経験によれば、長の選挙で二名の候補者―例えば「小田」及び「高橋」という氏の全く類似性のない候補者のみで争われる選挙において、その投票中に、一度は「小田」と書き、これを線で消し、その横に「高橋」と書いた「小田高橋」の如き投票をしばしば見受けるのであるが、このことは、選挙人が選挙当日の投票記載所においてすら、なお、いずれに投票すべきか迷うことを如実に示すものである。まして本件選挙の如く得票差の僅少な選挙において、前記(2)に記載した如き場合が生ずれば、不在者投票をすべき時点において考えた候補者と、選挙当日投票所において考える候補者と、必ずしも同一人であるとは限らないのである。

(3) 被告が訴願人堺進也の提起した当選の効力に関する訴願について本件選挙の全投票を調査したところ、本件選挙の選挙会において無効投票と決定された投票三十五件中には、明らかに原告の有効投票とすべきもの五票があり、同様に堺進也の有効投票とすべきものは四票存在する。

反面、原告の有効投票と決定された投票中には四十五票の明らかに無効とすべき投票があり、堺進也の有効投票と決定された投票中にも又無効とすべき投票二票が存在する。以上の有効、無効の投票の数を整理すれば、原告辻本市之助の得票と決定された数二、一二七票に五票を加え四十五票を減ずれば、二、〇八七票となり、次点者堺進也の得票と決定された数二、一〇一票に四票を加え二票を減ずれば、二、一〇三票となり、次点者堺進也の得票数が原告の得票数よりも多いこととなるので本件選挙の効力につき判定をする前にすでに原告の当選は無効とすべきものであつた訳である。

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